【2147冊目】松田青子『ワイルドフラワーの見えない一年』
これは小説? エッセイ? ショートショート? それとも散文詩? これまで読んだことのない、奇妙な味に満ちた作品集。
単なる不思議ワールドではない。そこには鋭いトゲがある。「ボンド」では、理想化されたボンドガールを現実に引きずりおろし、「あなたの好きな少女が嫌い」では、「細くて、可憐で、はかなげ」な、男にとって理想化された少女を痛烈に皮肉ってみせる。「男性ならではの感性」は、「女性ならではの感性」「女性ライター」「女性作家」など、「女性」を冠したコトバをすべて男性に裏返すことで、無自覚な差別意識をあぶりだす。
研ぎ澄まされた感覚と、それを表現する言語。異能の作家の紡ぐ、比類のない50編に、現代日本文学の極点を感じた。