自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2033冊目】ウィリアム・パウンドストーン『選挙のパラドクス』

 

選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?

選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?

 

 



日本では衆院選挙制度改革の議論がなかなか進まず(最近「アダムス方式」というのが出てきたが)、アメリカでは共和党のトランプ候補をめぐって、世界中が戦々恐々。いつものことながら、洋の東西を問わず、選挙をめぐる話題には事欠かない。

選挙の結果をめぐって起きた問題といえば、思い出すのはブッシュとゴアが争った2000年のアメリカ大統領選挙だ。フロリダ州での開票結果は法廷闘争にまでもつれこみ、世界中を驚かせた。

開票をめぐるゴタゴタはさておき、この選挙では「第三の男ラルフ・ネーダー緑の党)の存在も重要だった。ネーダーはブッシュやゴアの当選をおびやかすほどの勢力にはならなかったが、一方の票を「食う」ことで、選挙の結果に影響を与えることはできる。本書でいう「票割れ」の問題である。

選挙をめぐるパラドクスの中でも、代表的なものがこの「票割れ」だ。A党から1人、B党から2人の候補者が出て、一つの椅子を争うとする。A党候補者への投票は10万人。一方のB党候補者は、あわせて12万人。でもその12万票を二人で分け合った結果「共食い状態」となり、A党候補者の当選を許してしまう。

コンドルセ循環」も興味深い。これは日本流にいうなら「三すくみ」「ジャンケン」状態である。候補者Aは候補者Bより人気があり、候補者Bは候補者Cより人気がある。とすれば、論理的には、候補者Aは候補者Cより人気があるはずだ。だが選挙ではえてして、候補者Cが候補者Aより人気が高い、ということが起きる。

こうした事態を回避して、なるべく「民意」に近い候補者を選ぶため、さまざまな投票方法が模索されてきた。落としたい候補者を選ぶ「否定投票」、良いと思う候補者すべてに投票できる「是認投票」、すべての候補者に(amazonのレビューのように)1点から5点までをつける「範囲投票」……。本書はこうした「選挙の方法」をめぐる試行錯誤の歴史を概観し、「よりよき」選挙制度を模索する一冊である。

とはいえ、ケネス・アローがいうように「完璧な投票システムは存在しない」のも事実である(らしい)。選挙制度をめぐる議論とは、不可能を求め続け、少しでも民意の「近似値」をさぐる行為なのだろう。さらにそこに、制度そのもののからくりを熟知し、逆手に取ろうとする候補者たちの思惑も絡んでくるから面白い。どんな精巧なシステムを作っても、つまるところ、選挙とはやはり「人間」の生臭さからは逃れられないものなのだと思う。