自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1914冊目】三中信宏『系統樹思考の世界』

 

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

系統樹思考の世界 (講談社現代新書)

 

 

 

ある課題で、A君とB君のレポートが瓜二つだったとする。ここから「二人のレポートは同じカテゴリーに属する」と考えるのが分類思考だが、系統樹思考は「二人のレポートが似ている原因」を考える(まあ、ふつうはこっちでしょう)。A君がB君のレポートを写したのか、あるいはその逆か。共通の元ネタを二人とも写したのか。

 

これを系統樹思考では「系統の推定」というが、これが実は難しい。複数の仮説を立てても、何が妥当な原因であるかは、厳密には判断できないのだ。そこで登場するのが「アブダクション」という推論様式。産みの親C・S・パースによれば、これは、与えられた証拠から「最良の説明を発見する」方法である。ポイントは「正解」ではなく「最良」であるという点だ。系統樹思考とは、より良き仮説を求め続ける旅なのだ。

 

分類思考は「分ける」ことが本領だが、系統樹思考は歴史や因果を遡り、無関係に見えるものを「つなげる」ことに本質がある。本書は、その妙味を語り尽くした、新書ながら充実の一冊である。