【1898冊目】冨田篤『息を聴け』
全盲のピアニスト、辻井伸行がヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したときはびっくりしたが、本書に紹介されている熊本盲学校アンサンブルの快挙は、ひょっとするとそれ以上かもしれない。
ピアニストはまだしも一人で弾けるが、アンサンブルは「合わせる」ことが必要になる。だが、目に障害のある8人が、どうやって? しかも8人は、音楽のプロでもなんでもない。目が不自由であること以外は、ごくふつうの少年少女たちである。それが、著者が指導者として就任してからわずかの期間で、健常者の団体を尻目に県大会、九州大会を突破し、大学生をおさえて見事全国優勝を飾ったのだ。これを奇跡と言わずしてなんというのか。
もちろん、著者の指導も並外れたものだったのだろうが、そこはさすがに控えめに書かれている。その分、最大限の賛辞を注がれているのが、8人のプレイヤーたちである。障害者だからといって特別扱いをするのは彼らの意に反することかもしれないが、それでもやはり、「目」という武器を使わずして全国優勝レベルのアンサンブルを行うというのは、これはタダゴトではない。
どうやったかといえば、本書のタイトルどおり「息を聴いた」のであるが、いくら視覚障害者が「耳を使う」ことに秀でていても、それだけでテンポが揺れ動き、さまざまな楽器が重なり合う合奏曲を合わせるというのは、尋常なことではない。どれほどの集中力、どれほどの練習の繰り返しを経て、彼らが本番に臨んだことか。費やされたエネルギーと時間の量は、想像を絶するものがある。
思うのだが、こういう本こそ映画化、ドラマ化すべきである。言い方は悪いが、こんな絶好のネタを、どうしてみんな放っておくのか。もったいないことである。