【1863冊目】熊谷達也『氷結の森』
う~ん。これはちょっと、イマイチ。やはり『邂逅の森』から読むべきだったか。
極寒の樺太やシベリアの描写は見事だが、主人公の矢一郎が薄い。ハードボイルドといえばハードボイルドだが、それにしてはヒューマニスティックすぎる。伏せられた部分、書かれていない部分が浅い。著者は、荒木飛呂彦のように、矢一郎の「身上調査書」をつくるべきだった。
主軸の部分が弱いから、脇役も引きずられてつまらなくなっている。ダブル・ヒロインの香代もタイグークも、矢一郎のモテっぷりを示すための狂言回しにしか見えてこない。善助なんて、登場ぶりはなかなかカッコよかったのだが、だんだんかすんでしまった。もったいない。
とはいえ、基本的な筆力やドライブ感はあるので、細かいことを言わず物語の波に乗ってしまえば、それなりに満喫できるとは思う。ストーリーはなかなかの波乱万丈で、ラストにもう少し納得感があれば、といったところ。ま、今日はこのへんで。