自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1686冊目】松谷みよ子・味戸ケイコ『わたしのいもうと』

わたしのいもうと (新編・絵本平和のために)

わたしのいもうと (新編・絵本平和のために)

教育・学校本14冊目。

この絵本は、ものすごい。鉤爪で心をえぐるような破壊力の一冊だ。

「わたし」の妹は小学校4年生の時、転校先の学校でいじめられ、学校に行けなくなってしまう。それまではごくふつうに「ふざけたりはしゃいだり」「アイスキャンデーをなめたり」していた女の子が、学校で「笑われ」「いじめられ」「ののしられ」、しまいにはみんなから口をきいてもらえなくなるうちに、心を閉ざし、口をきかなくなり、ご飯を食べなくなる。

さらに残酷なのは、妹が閉じこもった部屋の外を、妹をいじめた子たちが通って行くこと。中学生になり、高校生になり……「笑いながら、おしゃべりしながら」、自分たちがかつていじめた相手が、今も心を閉ざし、部屋にこもっていることすら知らず。

妹はそのまま、その部屋で死んでしまう。いじめた子たちの知らないうちに、ひっそりと。

これがあの『いないいないばあ』『モモちゃんとアカネちゃん』の松谷みよ子か、と度肝を抜かれた。あまりにも、ひたすらに救いがない、絶望の淵にそのまま落ち込んでいくような絵本なのだ。

特に心に刺さるのは、いじめた側のあまりにあっけらかんとした罪悪感のなさと、いじめられた側の傷の深さのアンバランス。それをこの本は、「窓の外と中」というコントラストで、これ以上なく鮮やかに描き出し、読む側に突きつける。

いじめという行為に対して、一切のゆるしも斟酌も、この本を読んだらできなくなる。「たかがいじめ」「そんなのたいしたことじゃない」「いじめられるほうが悪い」などとは、この絵本を読んだら二度と口にできなくなる。これほどまでに人の心をずたずたに破壊する行為は、どんな理由があろうとも、許されるはずがない。そのことを心の底から確信できる。

この「いもうと」は、作中一度として、顔を描かれることがない。いじめた側の子も描かれていない。だからこの本は怖い。だってこの「いもうと」は、あなた自身や、あなたの子どもの姿かもしれないのだ。あるいはかつて、軽い気持ちでいじめた相手が、この「いもうと」なのかもしれないのだ。

読むほどに、思い出したくない記憶が次々に、ずるずると蘇ってくる。この絵本を読むのなら、自分自身の過去とトラウマ、知りたくなかった自分自身を知る覚悟をしたほうがよい。というか、できればそういう「行為」をするようになる前、小学校低学年の頃に、読んだ方がよい。そういう意味で本書は「劇薬絵本」。ただし、強烈に「効く」ことはお約束する。