【1587冊目】津原泰水『11 eleven』
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 単行本
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冒頭の「五色の舟」に「くだん」が出てくるせいか、読んでいてどうしても内田百間(間の「日」は「月」)のイメージが抜けなかった。でも後から考えてみれば、どちらかというとこの著者、百鬼園先生というよりは、夢野久作か江戸川乱歩の係累に近いだろうか。それにちょっと澁澤龍彦と筒井康隆テイストを振りかけた感じ……って、よけい分かりにくいか。
さて、本書は著者の短編集。「五色の沼」を筆頭に「延長コード」「追ってくる少年」「微笑面・改」「琥珀みがき」「キリノ」「手」「クラーケン」「YYとその身幹」「テルミン嬢」「土の枕」の11篇が収められている。
文体も世界観も作品ごとに違っていて、かなりバラエティに富んだ取り合わせになっているが、中で共通点を探すなら、どの作品も「向こう側の世界」のことを描いている、というところか。そう考えると、あるいはこの著者、ポーやブラッドベリの遠い子孫なのかもしれない。特に冒頭の短篇「五色の舟」なんて、そう考えればいかにもブラッドベリだ。
腕がなく肩口から直接指が生えている「僕」、一寸法師で怪力の昭助兄さん、一つの下半身から二つの上半身をもって生まれ、そのうち半身だけが生き残った桜、膝の関節が後ろ前の牛女、清子。そして両脚のない「お父さん」が、この一座を率いている。
このフリークス集団は見世物小屋で生計を立てている。見せるのはもちろん、自分たち自身。その5人が、「くだん」が生まれたという報を聞き、買い取りに行くため旅をする。くだんは人と牛のあいのこだ。牛の胴体に人の顔をもち、昔のことも未来のことも、本当のことしか言わない。
ちなみに内田百間にその名も件(くだん)という作品があり、まさにこのくだんが出てくる。一度読んだら忘れられない一篇で、本書を読んでまず百間を思い出したのもそのためだ。
それにしても、これだけでこの「五色の舟」が相当異様な短篇だと分かると思う。他の10篇もそれぞれに奇妙であったり幻想的であったりホラーだったりするのだが、粘っこいイメージ喚起力、印象の強烈さではやはりこの「五色の舟」が抜きん出ていた。
別の意味で印象的だったのは「琥珀みがき」。短篇というより掌編の長さだが、主人公のノリコに美しい琥珀のイメージが重なり合い、忘れがたい。「クラーケン」はラスト2行でギャッとなった。最後の「土の枕」は幻想味は乏しいがハイレベルな好短篇。こういうのが鮮やかに書けるっていうのはスゴイ。
著者の本は初めて読んだが、この一冊だけでも、多彩で多才な作家であることがうかがえる。はたして21世紀の乱歩、久作、はたまたブラッドベリになれるかどうか、楽しみだ。ちなみに未読だが、著者にはポーの「アッシャー家の崩壊」を本歌取りしたとおぼしい「蘆屋家の崩壊」という短篇がある。ひょっとして、著者の目指すは乱歩ならぬエドガー・アラン・ポーなのか?