【1581冊目】フェルディナンド・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』

- 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/04/11
- メディア: 単行本
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短編集『犯罪』『罪悪』がいずれも素晴らしかった、ドイツの現役弁護士作家シーラッハの長編第一作。3冊目の今回も、期待を裏切らない傑作……というか、本作が一番良かった。
イタリア人の引退した自動車工、コリーニは、なぜ実業家ジャン=バプティスト・マイヤーを殺したのか? この「why」をめぐる若手弁護士ライネンの奮闘と、そしてたどりついたとんでもない「理由」に、読みながら凍りつく。
意外に次ぐ意外な真相。胸をえぐる過去の事件。ネタバレになるので詳しいことは書かないが、なんといっても驚かされるのは、その「真相」がドイツの実在の法律をめぐるものであり、しかも本書がひとつのきっかけになって、その法律の見直しが行われたということだ。こういう切り込み方は、さすがプロの刑事弁護人シーラッハならではだろう。
そして、シーラッハの作品を読んできて思ったのは、この人の小説が描いているのは、社会や人生というものの「やるせなさ」についてなのではないか、ということ。それは本書の結末、殺人者コリーニのたどった末路にもあらわれている。
そしてもう一人、犠牲者マイヤーの孫娘ヨハナとライネンが最後に交わす会話が、かろうじて著者が本書に残した「光」なのだろう。本書冒頭に掲げられたヘミングウェイの言葉が、本編最後のパラグラフに見事に回収される。そのあざやかな手際は、この人がもはや手練の作家でもあることを示している。いやあ、素晴らしい。
未読の方に、ぜひライネンの辿りついた答えの「愕然」を味わってほしいので、本書の核心部分、一番書きたいことを今回は書かなかった。その意味は、読んでいただければ分かると思う。
そして読んでいただければ、最もスリリングなリーガル・サスペンスと、最も深く重い読書体験を同時に堪能できることを、確約する。読まないともったいない、と断言できる作品に、久しぶりに出会った。オススメ。