【1578冊目】ジェフリー・ディーヴァー『バーニング・ワイヤー』

- 作者: ジェフリーディーヴァー,Jeffery Deaver,池田真紀子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/10
- メディア: 単行本
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リンカーン・ライム・シリーズ最新作。今度のテーマは「電気」。凶器としての「電気」の恐ろしさに加え、電気に依存しきった現代文明の脆弱さ、電力寡占から再生可能エネルギーの問題まで、とにかく電気一色の作品である。
前に読んだ『ソウル・コレクター』が個人情報とデータ・セキュリティを扱っていたのに続き、最近のディーヴァ―はちょっと社会派っぽくなっているような気がする。特に311以後の日本では、このテーマは異様にリアリティがある。
電力会社アルゴンクインはまるっきり東京電力だし、都市にとっての停電の恐怖というのも、思えば最近経験したばかり。ただし、ディーヴァ―は問題提起はするものの、それ以上踏み込むことはない。あくまでエンターテインメントが中心で、テーマ設定はあくまで味付けにすぎない(むしろ定番の社会派テーマだと思っていると、ミスリーディングの材料に使われたりするので油断がならない)。
むしろ本書の読みどころは、電気というものが、使い方を知っている者にとってはいかに恐ろしい「凶器」になりうるかということだろう。ホテルのロビー全体を「通電」させたり、エレベーターの中に水をまいた上で、ボタンを押した人間が通電させられるように罠を張ったりと、その破壊力のすさまじさと仕掛けの簡単さには下を巻く。
電気は今やありとあらゆるオフィスや住宅、道路から公共施設にまでくまなく張り巡らされている。犯人は単にその配線を変え、電気の通り道をつくってやればいい。しかも、作業服を着て帽子をかぶり、ケーブルを肩にかついだ恰好でうろうろしていれば、誰からもあやしまれず堂々と「工作」ができるのだ。まさにこれこそ究極の「凶器」であろう。
ディーヴァ―名物の「どんでん返し」については、前もってその存在が予想できているので、なんとなく途中で勘が働くのだが、今回一つ意外だったのは、偶発的なハプニングが組み込まれていたこと。
だいたいこの手のミステリって「偶然の出来事はない」というのがある種のお約束になっていることが多く、偶然に見えても実は……というトリックが多いのだが、本書で起きたある事件はホントに偶然で、しかもそれがサブストーリー的な部分とはいえ結構いろんな影響を与えていた。まあ、確かに「全部が必然」というのもある意味ウソ臭いというか、一種のお約束の世界にすぎないのだが……
なお、今回はライムの内面にかなり踏み込んだ部分もあり、人間ドラマとしても読みごたえのあるものになっている。今後のリンカーン・ライム・シリーズがどうなるか、実に楽しみな終わり方だ。月並みな終わり方だが、次回作を楽しみに待ちたい。