自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1574冊目】中川李枝子『本・子ども・絵本』

本・子ども・絵本

本・子ども・絵本

二人の子どもの親として、中川李枝子の絵本には、いくら感謝してもし足りない。

『いやいやえん』『そらいろのたね』そして『ぐりとぐら』! いったい何回、寝る前の読み聞かせでこのシリーズを読まされたことか。

「ぼくらの なまえは ぐりとぐら
 このよで いちばん すきなのは
 おりょうりすること たべること
 ぐり ぐら ぐり ぐら」


ところで『ぐりとぐら』の最初の一冊で、ぐりとぐらがおおきなカステラを焼いたきっかけは、なんと『ちびくろ・さんぼ』だったらしい。どういう経緯だったかは、ぜひこの本を読んでください。

本書はタイトルどおり「本」「子ども」「絵本」をめぐる中川李枝子のエッセイ集。ふんわりゆるやか、ぐりとぐらの作ったカステラみたいに香ばしくてふわっとおいしい文章は、読むだけでなんだか幸せになってしまう。そして、著者を通り抜けてきたたくさんの絵本が紹介されているので、むしょうに懐かしい気分になる。押入れの奥からむかしの絵本を引っ張り出してホコリをはたき、読みなおしてみたくなる。

ちなみに、著者のお子さんも熱中したというバージニア・リー・バートンの『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は、実はウチの子が最初にハマった絵本だった(ウチの場合、そのまま機関車熱、電車熱が高じて「鉄ちゃん」になってしまったが)。『おおきなかぶ』も『おおかみと七ひきのこやぎ』も『てぶくろ』も『ちびくろ・さんぼ』も、そういえば何度も読んできた。

一方で、傑作絵本として挙げられているのに子どもが読んでいない絵本があると、なんだかとりかえしのつかないことをしてしまった気分になってしまう。ウチの子は『ちいさなねこ』も 『チムのゆうかんなせんちょうさん』も『しょうぼうじどうしゃじぷた』も読んでいない。

今から読めばいいじゃないかって? とんでもない。やっぱり「あの時期」にこういう面白そうな絵本をスルーしてしまったのは、とりかえしのつかない失策なのだ。ああ、もったいない。

絵本と子どもに対する著者の愛情はめっぽう深い。それだけに、子どもをゆがめかねない早期教育や英才教育、粗製乱造の出来の悪い絵本に対しては、そこだけは読んでいてぴりりと背筋がのびるほどの厳しい言葉が並ぶ。

「つまらない絵本を十冊もっている子どもより、気に入りの絵本を三冊持っている子どものほうが満足度は高いはずです」(p.107)と著者は言う。その根底にあるのは、子ども自身の絵本を見る目への絶対的な信頼。大人がヘンな「教育的配慮」で選ぶ絵本より、子ども自身が選び、繰り返し読む絵本こそがホンモノなのだ。

著者はもともと保育園の先生だった。それもひたすら子どもを遊ばせまくり、絵本を読みまくる世にも楽しい保育園だったそうだ。この「みどり保育園」は残念ながら閉園してしまったらしいが、その間に子どもたちの「選書眼」に鍛えられたからこそ、その後の絵本作家としての著者があるのだろう。

実際、本書を読んでいると、ああ、あの絵本のあの場面はここのことだったのか、と気付かされることがひんぱんにあった。子どもを先生と呼び、本気で子どもに学ぼうとした著者だからこそ、あんなに魅力的で子どもたちを惹きつける本が書けたのだ。

他にも戦時中の体験や父母のこと、絵本三昧だった子ども時代、岩波少年文庫への熱い思いなど、作家・中川李枝子のルーツが良く分かる一冊。さらに、選り抜きのすばらしい絵本や少年少女文学が山ほど紹介されているので、子どもにどんな本を読ませればいいか迷っている親御さんにはうってつけだ。ついでにこの本から、「ホンモノの」子どもとの関わり方を学ぶとよいだろう。

むかし『ぐりとぐら』に夢中だったすべての人に、オススメしたい一冊だ。

ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集) いやいやえん―童話 (福音館創作童話シリーズ) そらいろのたね(こどものとも絵本) ちびくろ・さんぼ いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本) おおきなかぶ―ロシア民話(こどものとも絵本) てぶくろ―ウクライナ民話 (世界傑作絵本シリーズ―ロシアの絵本) おおかみと七ひきのこやぎ (世界傑作絵本シリーズ―スイスの絵本) ちいさなねこ(こどものとも絵本) チムとゆうかんなせんちょうさん―チムシリーズ〈1〉 (世界傑作絵本シリーズ―イギリスの絵本) しょうぼうじどうしゃじぷた(こどものとも絵本)