【1528冊目】大津秀一『死ぬときに人はどうなる 10の質問』
- 作者: 大津秀一
- 出版社/メーカー: 致知出版社
- 発売日: 2011/09/16
- メディア: ハードカバー
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著者は緩和医療医、つまり終末期医療のプロ。今まで千人以上の死を見届けてきたという。『死ぬときに後悔すること25』という本もあり、そちらを読んだことのある方もおられるかもしれない。
本書では、著者は10の質問を設定し、それに答えるというカタチで「死」について語っている。いや、「死」そのものについては死んでいない私たちは分からないのだから、「死の一歩手前について」と言った方が正確だろうか。ちなみに質問は以下のようになっている。
1 死を語るあなたは何者ですか?
2 死ぬときに人はどうなりますか?
3 人はどんな風に思って死んでいくのでしょうか?
4 人は死期を悟るのでしょうか?
5 健康に気をつかっていれば死ににくいですか?
6 なぜ死を見つめることが必要なのですか?
7 死後の世界について言い切らないのはなぜですか?
8 孤独死は不幸でしょうか?
9 死とは不幸ですか? 死ななければ幸福ですか?
10 死をも左右する力を手に入れた人間は、本当に偉いのでしょうか?
臨床医としての豊富な体験に基づく洞察は、さすがになかなか読みごたえがある。特に「実用」という面で重要なのが「患者の意識がはっきりしているのも、日常の動作が問題なく可能なのも死期が迫ると厳しくなる」(p.52)という指摘だろう。
死期が迫ってくると、時間や場所の感覚が曖昧になったり、混乱状態(譫妄)になることもある。一方、死期が迫った人の多くは「夢を見ているような状態」になるため、一見苦しそうな声をあげていても、苦しみからは解放されていることが多いという。
この説明にはちょっとホッとした。自分の身近な人を看取ることになる可能性はいつだってあるわけなのだから(実際、私自身も最近、祖母を看取る経験をした。もっともその時はまさに眠るように亡くなったので、そもそも苦しむような様子はなかったのだが)、死を直前に控えた人がどんな状態になるのか、という知識は、絶対に必要だ。
もうひとつ、これはけっこう読んでいてドキッとしたのが「死にゆく者は、多くの場合死期を悟っているし、特にそれを話題にされることを忌避するものではなく、むしろ喜ばれることもあるだろう」(p.120)という指摘だった。むしろ周囲の家族や友人のほうが、死をタブーにしてしまい、いつまでも「頑張れ」「病気に負けるな」などと叱咤激励してしまうため、患者本人を苦しめることになるという。
もちろん、その患者が本当に「死にゆく者」なのかどうかの判断が周囲にとっては難しいのだが、それは治療の進展の度合い、医師や看護師の言葉、そして何より患者本人の意志表示から探っていくしかない。問題は、本当は分かっていても周囲の人々自身が「死」を否認してしまうケースである。もちろん気持ちは分かるのだが、いつまでも死を受容できない家族や友人の態度が、かえって患者を苦しめてしまうことがある、という点は理解すべきだ。
むろん死の迎え方は人それぞれであり、決まった「答え」や「定式」があるわけではない。そのことは本書でも何度も強調されている。だが、その上で分かっておいたほうが良いこと、知らなければならないこともまたあるのである。
自分の身内が、そして自分自身が死を迎える日のための一冊。