【1423冊目】米山秀隆『空き家急増の真実』
- 作者: 米山秀隆
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2012/06/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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空き家が増えているらしい。総住宅数に占める空き家の割合は、1958年が約2%だったのに対し、2008年にはなんと13%(p.15)。住宅のうち1割以上が空いているということになる。
もっとも、このうち大半を占めるのは賃貸用住宅で、空き家率17.6%。それに対して売却用住宅は1.1%である。賃貸用住宅はある程度の空きがないと回転しないという事情があり、物件を探す立場からすれば、むしろ「空き」が多いほうが選択の余地が広がって好ましい……のだが、それでもこの17.6%という数字は大きい。著者によれば、経営上折り込み済の空き家率は、せいぜい10%だという。
しかし、そもそも、なぜ空き家が多くてはいけないのだろうか。(商売上の理由はともかくとして)。実は、その答えは地域によって微妙に異なるようなのだ。
このことは、いくつかの自治体が制定している「空き家管理条例」を見るとよくわかる。本書で紹介されている中でも、たとえば北海道ニセコ町や鳥取県では、「景観条例」の中で空き家についての(強制撤去も含めた)規定がなされていて、これは明らかに景観保全目的での空き家規制である。要するに空き家は町の美観を損ねるからいかん、というわけだ。
一方、埼玉県所沢市や東京都足立区の空き家管理条例は、住宅密集地における空き家のリスクに着目しているらしい。ここでは、管理不全による倒壊のおそれ、不特定者の侵入による火災や犯罪誘発のおそれなどの外部不経済をもたらすがゆえに、空き家は好ましくないということになる。
さらに秋田県の大仙市や横手市などの空き家管理条例は、なんと積雪による空き家の倒壊を懸念するという枠組みになっている。さすがは雪国である。このように、同じ「空き家管理」といっても、地域が異なれば問題点も対策も、そもそも条例をつくる理由さえ異なってくる。大げさな言い方をすれば、これこそが地方自治なのだ。単に先進自治体の条例を「コピー&ペースト」すればよいというものではない、という良い見本だろう。
さらに、本書は単に空き家増加の問題点を取り上げるだけではなく、そこに空き家活用の視点を持ち込んでいる。実際、そもそも空き家増加の主な原因は人口減少による住宅ストックの供給過剰にあるわけであるが、これは言い換えれば、住宅自体が「余っている」時代に突入したということである。
そうであれば、この余剰を活用しない手はない。思い出すのが、東日本大震災で「大活躍」した「みなし仮設住宅」の制度だ。これはそもそも、膨大な量の仮設住宅を確保するのが難しいため、自治体が民間賃貸住宅を借り上げて被災者に提供するという仕組みであり、いわば仮設住宅の代用品という苦肉の策だった。
しかし、これが意外な人気を呼んだ。そもそも仮設住宅は、どうしても用地確保の関係上、不便な場所に建てられる上、住環境も決して良いとは言えない。ところがこの「みなし仮設住宅」は、すでに住宅地に建っている賃貸住宅をそのまま使えるため、かえって通勤や通学の利便性が高かった。しかもコストが安い。仮設住宅1戸にかかるコストは撤去まで含めると500万円程度だが、2年間の民間住宅借り上げなら、家賃6万円として200万円程度。つまり仮設住宅1戸の値段で2戸分の住宅が提供できるのだ。
だが、考えてみればこれって、仮設住宅だけの問題ではない。そもそも民間賃貸住宅がこれだけ余っている時代に、公営住宅を建てる意味がどれだけあるのか。むしろ住宅セーフティネットの仕組みを、「住宅不足の時代」に対応した公営住宅建設から、「住宅余剰の時代」に対応した家賃補助や建築費補助、優良住宅の認定制度等に移行していくべきではないのか。著者はこう指摘し、現状に合った住宅セーフティネットの再構築を提唱している。実際、いわゆる「特優賃」の制度など、すでにいろんな動きは出てきている。
これまで住宅行政にはあまりなじみがなかったのだが、考えてみれば「衣・食・住」というように、人は住まいがなければ生きていけない。しかもその置かれた環境は、すでに書いたとおり大きく変わりつつあり、住宅行政自体もドラスティックな変化を迫られている。本書はそんな現状を具体的なデータを示しながら分かりやすく解説した一冊であった。
願わくば日本の住宅文化を「歴史」と「社会」と「心情」の面から切り取る視線も欲しかったが(特に住宅に対する考え方の変遷が気になっている)、これについては次回作に期待することにしよう。住宅施策の重要性を認識させてくれたというだけでも、私にはたいへんありがたい一冊であった。