自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1318冊目】岩田正美『社会的排除』

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)

社会的排除」については、以前ジョック・ヤングの『排除型社会』を紹介したが、本書は、言うなればその日本版。ホームレスの状況を中心に、日本における社会的排除の現状を分析し、その処方箋をさぐる一冊だ。

もともと「社会的排除」なる概念はヨーロッパで発したという。そのメイン・コンセプトは、経済的な貧しさのみならず、社会的な関係からの排除を捉えるという点だ。とはいえ現実には、経済的な貧困と社会的な排除は密接につながっている。

その典型が、本書で重点的に分析されているホームレスやネットカフェ・ホームレス(いわゆるネットカフェ難民のこと)である。中で興味深かったのは、ホームレスには社会のメインストリームから何らかの事情で引きはがされた「引きはがし」型と、そもそも幼少期から社会のメインストリームに参加したことがなく、最初から社会と中途半端な関わりしかもってこなかった「中途半端な接合」型が存在するという指摘であった。

また、社会の「周縁」を排除する動きが、結果として(あるいは意図して)社会的排除を促進してきたという指摘も痛烈だ。ここでいう「周縁」とは必ずしも地理的な「はじっこ」には限らない。むしろ現代では、都市内部にこうした場所がスポット的に点在している。その具体例として著者は「労働住宅(寮)」「旅館・宿泊所(ヤド)」「社会施設(シセツ)」「飲食店・娯楽施設(ミセ)」を挙げる。

そもそもそうした社会の周縁部分に貧しい人々を追いやり、いわばゲットー化してきたこと自体、問題がないわけではないが、それより喫緊の課題となっているのは、こうした場所がどんどん減っていることだ。いわゆる「ドヤ」や「寄せ場」が消滅し、ノーマライゼーションの流れの中で施設が減少しているのはその一例にすぎない。その点、ネットカフェやファミレスは現代における「ミセ」として、無くなりつつある周縁部の代替機能を果たしているといえるのかもしれない。

他にも本書は年金や生活保護などの制度上の問題も取り上げたうえで、現代の日本における社会的包摂のあり方を提示している。その内容を紹介すると長くなってしまうので省略するが、一点だけ挙げるとすれば、イギリスの「アセットベース福祉」の考え方はおもしろい。

これは日本でいえば子ども手当を子供用の貯金に毎年入金し、18歳まで引き出せないようにしてしまうようなものである。その結果、すべての子供が成人する時には一定の資産をもつことができ、社会に出た時点でのスタートラインを少しでも底上げするというものだ。貯蓄をむしろ否定するような傾向のある日本の福祉制度とはある意味対極にあるような考え方だが、アイディアとしては検討に値するのではないか……なんて思っていたら、この間、生活保護制度の改正案として似たようなプランが挙がっていた。対象や手段はいろいろ異なるようだが、それも含めて、今後どうなるかちょっと気になるところではある。

排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異