自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1293冊目】中島岳志編『やっぱり、北大の先生に聞いてみよう』

中島岳志氏がホスト役を務め、山口二郎、宮脇淳、山崎幹根、中尾修氏らと地域の活性化や地方自治地方分権について語る一冊……なのだが、面白いことに、そのモトになっている企画自体が、実は地域の活性化とビミョウに結びついている。というのも、札幌市内のその名も「ソクラテスのカフェ」で北海道大学の先生を招いて行っているトークイベント「大学カフェ」でのお話や質疑応答の中身を活字化したのがこの本なのである(ただし、中尾氏との対談だけは別)。ちなみに本書は第2弾で、実は第1弾『じゃあ、北大の先生に聞いてみよう』もすでに刊行されているらしい。

どのセンセイも、町のカフェで一般市民のみなさんに語るというスタイルだけあって、お話の中身がものすごく分かりやすい。しかも、札幌市という具体的な「自分たちの町」を取り上げているため、非常に身近な内容となっている(と思われる)。参加者からの質問もなかなか鋭いものが多く、この「大学カフェ」という試み自体が、地域に定着していることがうかがえる。

第1講が中島岳志氏で、「新しい公共」のあり方から始まり、「参加する社会」の一例として札幌の発寒商店街の事例を紹介する。ここでは交流の場としての「カフェ・ハチャム」が面白い。

中島氏がカフェ・ハチャムでこだわったのは「お金をとること」「うっとうしくないこと」「毎週イベントをやること」だったという。

中でもカフェの名前を「ふれあいカフェ」とかにはしたくなかった、というのが印象的だった。これはコミュニティカフェなどを作るとき、いかにもありがちな失敗なのだが、そういう名前にし、そういう雰囲気にしてしまうと、「ふれあいに行かなければならないと思って」逆に行きにくくなる。お金を取るのも同じ意味があるのだが、「それぞれの人の距離感でカフェと接することができる」(p.60)ことが大事なのだ。変にアットホームで手作り感満載だと、内輪ノリが見えてしまって外の人間はとたんに入りづらくなる、とも中島氏は指摘する。同感である。

第2講が山口氏で、民主党政権への期待と批判を織り交ぜつつ地方分権を論じる。民主党らしさ(むしろ鳩山カラーというべきか)を「ポスト冷戦」「ポスト物質主義」「ポスト権威主義」の3つのポストで捉えつつ、批判されるたびにぶれるな、腹をくくれ、と叱咤している。同感。第3講は宮脇氏による地方財政論だが、これまたギリシャの財政危機に始まり、グローバリズムから中央集権と地方自治にまで及ぶ講義は「世界一分かりやすい地方財政論入門」。第4講は山崎氏による地方議会論だが、これも明快ながら非常に本質を衝いた議論が展開されている。

個人的に印象に残ったのは、質疑応答での「『小さな政府』は『小さな権力』にはならない」(p.193)という中島氏の指摘。むしろ「小さな政府」においては、民間委託でなんでもかんでも行政機能をアウトソーシングすることで「責任を取らなくていい、権限だけを持っている権力が生まれてくる。グロテスクな権力が発生してくる」(同頁)からだ。ちなみに、その極端な例が「戦争の民営化」であるという。なるほど。

全体として驚かされたのは、地方自治プロパーの方ではないにもかかわらず、中島氏が地域活性化や地方分権に対してたいへんな理解の深さと分析の鋭さを持っておられること。インドのことばっかり書いている方かと思っていたのだが、お見それいたしました。いや、それほど今の地方の状況、あるいは日本の現状に対して強い危機意識を持っているということなのだろう。明確な処方箋が示されているというわけではないが、多くの問題意識と、そしてヒントが詰まった一冊だ。

じゃあ、北大の先生に聞いてみよう―カフェで語る日本の未来