自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1287冊目】山口道昭編著『入門地方自治』

入門 地方自治

入門 地方自治

本書は「山口道昭編著」となっているが、巻末をみると、山口氏が本文、出石稔氏がコラム、というカタチで分担執筆していることが分かる。本文とコラムの書き分けの基準はよくわからないが、本文が基本事項の解説、コラムが一歩突っ込んだ問題点や事例、という感じだろうか。どういうイキサツでこういう役割分担になったのかよくわからないが、こういう分け方はちょっとめずらしい。

さて、本書は地方自治の基本事項に関する解説書。著者はいずれも自治体職員経験者だが、実務のリアルな側面にはほとんどタッチしておらず(新聞報道などで分かる程度のことしか書かれていない)、むしろ制度面の解説が中心のオーソドックスな入門書となっている。

また、お二人とも地方自治制度に関してはいろいろ言いたいことがおありだと思うのだが、本書ではそうした主張はかなり抑えられており、むしろ教科書として客観面の記述に徹している。とはいえ、ところどころに(抑えきれず)著者の本音が噴出している箇所が見受けられ、そういうところをチェックしながら読むのもなかなか楽しい。

立ち位置としては、著者自身が「はしがき」で述べているとおり、学生レベル、初学者レベルを対象としつつ、重要なテーマについてはやや突っ込んだ解説をしているという按配。そうした部分が初学者には難しく感じられるかもしれない、とも書かれているが、なに、教科書というもの、ところどころそうした「歯ごたえのある」部分がないと、かえって平板でつまらなくなってしまうものなのだから、全然問題ないと思う。むしろそうした「突っ込んだ」部分こそ、実務において実際に問題になったり、頭を悩ませることになるのだから、初学者のうちにそういう課題について頭を使っておくほうが良いのかもしれない。

初めて知ったというほどではないが、読んでいていろいろ頭の中が整理された部分も多かった。そもそも、冒頭の「国」と「国家」の違いについてのくだり自体、そういえば今まで、あまり明確に意識してこなかったような気がする。

また、市民協働に関連して「協働相手にならない市民に対しても、十分な配慮が求められる」(p.229)といった指摘も、さらっと書いてあるが実はたいへん重要ではなかろうか。なお、これに関しては次のページでもこのように書かれている。ついでに引用しておく。「いずれにしても、全体住民の信託を受けて設立された自治体の行政機関が、一部住民と対等な関係で共同して事業を行う『市民協働』は、従来の行政手法にない新しい仕組みである。そうであれば、これらの内容について住民の代表者で構成される議会でしっかり審議し、その結果を条例という形で定めておくことが重要である」

地方自治法」ならぬ「地方自治」の入門テキストとしては、なかなかに手ごろな一冊。ただ、地方分権の流れについてはある程度の知識があったほうが読みやすいかもしれない。あと、本書は巻末に地方自治関係の年表がついている。編集者の方が作成されたそうだが、これが過不足なく、とてもよくできている。本書をお読みの際は、巻末まできっちりと目を通されたい。