【1241冊目】フランツ・カフカ『カフカ短編集』
- 作者: カフカ,池内紀
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1987/01/16
- メディア: 文庫
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あらためて、カフカとは「謎」だと感じた。
ここに収められている短篇は、どれも謎に満ちている。というか、よくわからない。そしてまた、わからないなりに面白く読めてしまうのが、またおもしろい。
よくわからないものがあると、どうしてもそれをわかりたくなる。理解し、意味を解き明かし、著者の真意を探りたくなる。しかし、カフカの場合、そうした衝動こそがワナであるような気がする。謎を解くほうに意識が向きすぎると、肝心のところを読み過ごす。むしろ、謎を謎のままにしておくほうがよい。そういう気持ちで読んでいくと、謎そのものがじわじわと楽しくなってくる。
わずか2ページほどの、短篇というよりショートショートのようなものから、「火夫」「流刑地にて」などの長めのものまで、とにかくいろんな作品が詰まっている。個人的に印象に残ったのは、前に読んだ『訴訟(審判)』に挿入されていた「掟の門」(この物語の寓意というのが、まさに上に書いたようなことなんじゃないかという気がする。そう思うこともまた「謎解きの罠」かもしれないが)、異様な処刑機械の解説に旅行者が立ちあわされるシュールな(なんだか筒井康隆の初期の短篇を思い出した)「流刑地にて」、奇妙なボールの話が後半どこへ行ってしまったのかとても気になった「中年のひとりものブルームフェルト」、オドラデクという奇妙な存在が忘れがたい「父の気がかり」など。どの短篇が気になったか、読んだ人に聞いて回りたくなる一冊。