【1191冊目】ジャン・コクトー『恐るべき子供たち』
- 作者: コクトー,中条省平,中条志穂
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/02/08
- メディア: 文庫
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興奮した。一息に読んだ。ラルボーの『幼なごころ』を濃縮し、そこに阿片と夜と退廃をひと垂らし。そんな邪悪なカクテルを、一気に飲み干した気分だった。
雪合戦のシーンで始まる。14歳のポールは、ひそかに愛する生徒ダルジュロスにぶつけられた雪玉が原因で寝込んでしまう。そこは姉のエリザベートと二人きりの「子供部屋」。ポールの友人であるジェラール、ダルジュロスによく似た少女アガートがこの聖域に入り込み、4人だけの秘密と退廃の日々が始まる……。
強烈で圧倒的だったのは、冒頭に登場するダルジュロスの、マッチョで無頼なイメージ。雪合戦のシーン以外、ほとんど登場しないのに(物語の終わりのほうにちらっと出てくる程度)、小説全体に大きな影を落としている。ポールは、アガートにダルジュロスを重ね合わせて恋に落ちるが、弟を奪われたくない姉エリザベートは、はかりごとをめぐらせてそれを妨害する。
この4人、特にポールとエリザベートの姉弟の関係の濃密さは、ちょっと異様なほど。それは、単に姉弟だから、あるいは友人だから、というだけではなさそうだ。彼らに共通するのは、親子関係の異常(というか、親の異常)と、それによる「壊れ」「欠落」を心の中に抱えている点。欠落を抱える者同士だからこそ持ちうる密接で濃厚な関係性は、現代の不良少年たちにも通じるものがある。
ハックルベリ・フィンがミシシッピの上で筏を操る昼の不良少年だとすれば、彼らは薄暗い子供部屋にこもる夜の不良少年。彼らの中に見られるのは、聖なる背徳、あるいは悪の純粋さ。そのあまりの繊細さに、読んでいて心が痛む。