【1182冊目】武藤博己『自治体の入札改革』
自治体の入札改革―政策入札―価格基準から社会的価値基準へ― [自治体議会政策学会叢書/Copa Books] (COPABOOKS―自治体議会政策学会叢書)
- 作者: 武藤博己,自治体議会政策学会
- 出版社/メーカー: イマジン出版
- 発売日: 2006/08/04
- メディア: オンデマンド
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以前、岩波文庫で刊行された「入札改革」をリライトした一冊。入札、契約といったテーマを正面から扱っている。
談合に対する強い問題意識から、本書は始まっている。たしかに、談合自体は大きな問題である。そもそも談合とは、業者の共存共栄という美名のもとに税金を食い物にする行為にほかならない。しかもその構造上、明確な「被害者」がいないため、内部告発などの「タレコミ」がない限り発覚することはない。
もっとも、2006年の改正独占禁止法施行、それに先立つ大手ゼネコンの「談合決別宣言」など、潮流は少しずつ変わりつつある。しかしそのことが、今度は価格のダンピング、下請けへのしわ寄せとなって現れてくる。談合撲滅を仮に果たしたとしても、価格のみによる入札は、別の問題をもたらすことになる。
その対応策として、現在すでに行われているのが、価格以外に技術力などの要素を加味する「総合評価型入札」だ。これ自体、評価の仕方など難しい点はいろいろあるが、うまくいけば「安かろう悪かろう」の業者を排除することができる。さらにPFI方式の導入など、この方向での改革はいろんなところで始まっている。
そこを一歩進めるかたちで、著者が提唱するのが「政策入札」である。これは、自治体の政策を入札における評価項目として導入するというもので、具体的には「障害者雇用」「男女平等」「環境」などが挙げられる(実際にその一部を導入している自治体もある)。以前ここで紹介した「公契約条例」も、この考え方の延長線上にあるといえる。
当然、内容は自治体ごとの価値付けで変わってくる。障害者雇用を重視するところもあれば、環境認証の有無にウェイトを置くところもあるだろう。ということは、いわばこの制度は、入札というカタチで表現された「地方自治」なのである。なかなかおもしろい。
ただちょっと気になったのは、入札対象となる企業は自治体の区域内にのみあるとは限らない点。つまり、入札を「エサ」にたとえば雇用条件改善や環境認証取得を果たしたとしても、その結果が当該自治体にもたらされるとは限らないことだ(これは公契約条例でも感じた点)。むしろ、環境問題や障害者雇用に取り組む余裕のある東京や大阪の大企業に地方の仕事が流れ、地方の中小企業の衰退につながるという「反作用」がちょっとこわい。
したがって、制度導入のハードルとなるのは、特に大手企業の少ない地方にあっては、公共事業による地方活性化という「神話」を信じる方々(地方議員や地元有力者)をいかに説得するか、ということになる。う〜ん、これはなかなか大変そうだ。
なお、著者は政策入札の際の評価者として、学識経験者や公募市民を入れた「第三者委員会」の設置を提言している。すでにプロポーザル審査等の際に評価委員会を設置している自治体も多いと思うが、いわばそれの常設バージョンをつくってしまうわけだ。
本書は政策入札の文脈でこの「常設の第三者委員会」の制度を提唱しているが、それ以外の場面でも、この制度はいろいろと応用できそうだ。評価内容によって構成メンバーの一部を変えてもよいだろう。ただし、巨大な利権が絡むため、メンバーの「公平性」は絶対条件。委員会自体は10人〜20人程度にして、入札ごとにくじ引きで5人程度を選ぶ形式にしてもよいかもしれない。