【1161冊目】佐野洋子『死ぬ気まんまん』

- 作者: 佐野洋子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/06/18
- メディア: 単行本
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こんな心境で死を迎えられたらいいな、と思う。
昨年惜しくも亡くなった絵本作家・エッセイスト、佐野洋子さんの、文字通り「死」を目の前にしたエッセイ集。ちなみに佐野洋子さんといえば不朽の名作絵本『100万回生きたねこ』の作者で、子どもへの「読み聞かせ」では何度となくお世話になった。もっとも、個人的には『おじさんのかさ』(これも名作!)のほうが印象深かったが……。
さて、先ほど「惜しくも」とついつい書いてしまったが、実は著者は本書の中で「七十歳は、死ぬにはちょうど良い年齢である」(p.57)なんて書いちゃっているのだ。ちなみにその前にあるのは「私は今が生涯で一番幸せだと思う」というコトバ。ああ、いいなあ。70歳になって自分がこんなことを言えるだろうか。そして、実際そのとおり72歳で亡くなったわけであるから、考えてみればこんないい人生はない。
「死ぬ気まんまん」というタイトルは、本文を読んだ限りでは、誇張でもなんでもない。生に対するこだわりのなさは、どうもこの人にとっては筋金入りのようだ。その根っこにあるのは、どうやら著者のお父様が夕食の時に語った「命と金は惜しむな」という訓辞、そして満州からの引揚者でもある著者が幼少期に体験した、きょうだいや周囲の人々の死の体験らしい。生のすぐ裏側に死があることを知っているからこそ、この人は「生命は地球より重い」なんてことを決して軽々しく言ったりはしない。
それを裏返して言えば、よく言われるセリフではあるが、私を含む現代人の多くが、生きることにやたらと執着し、死をむやみに恐れるようになった大きな要因のひとつは、身近に「死」を体験することが少なくなったためなのかもしれない(もっとも、今回の震災は、まさにそこのところを大きく揺さぶったわけだが)。
本来、生きることは、一歩一歩死に近づくその過程そのものであるはずなのに、私なんぞはふだんの「日常」では、そのことを忘れ、覆い隠して生活しているのだ。反省。また、一部の行き過ぎた健康志向の中にも、死から目をそらそうとする心の動きを感じることがある。だが、生きることの目的が生き続けることであるというのは、考えてみればマンガ的にこっけいだ。そういえば、著者の代表作『100万回生きたねこ』は、まさに「そういうこと」が書かれた絵本ではなかったか。
メメント・モリ。死を想え。親しみやすい平易な文章の中に、現代人への重いメッセージが込められている。死を前にしてあわてないように、誰もが一度は読んでおきたい一冊。