【1157冊目】清永賢二『大泥棒』

- 作者: 清永賢二
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 単行本
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人は、彼らを「賊」と呼ぶ。
彼らは盗みのプロフェッショナルである。盗みという「伝統の技」の継承者であり、ホンモノの闇の住人である。その技は闇から闇へとひっそり伝えられていたが、伝統技能の多くと同じように、今やそのほとんどは失われているという。
ところがなんと、その中でも「最後の賊」と呼ばれた「忍びの弥三郎」が、獄中日記を残していた。表向きは「自分のような生涯を送る者がないよう求める戒め、一般市民が被害者とならないための防犯上の忠告」として書かれたものだという。しかし、刑務所の中で、「読まれる」ことを前提に書かれた日記だけに、ストレートに読むだけでは、そこに込められた真の意味は伝わらない。そこでこの日記を、もうひとりの腕利きの元「賊」である「猿の義ちゃん」の手引きによって読み解き、その裏を探る。本書はその驚くべき「読み解き」の記録である。
なんといってもびっくりするのは、ここまで書いていいの?と思ってしまうほどの、徹底した具体性だ。侵入する家の選び方、下見のポイント、犬や防犯カメラへの対処法、押し破る個所の見分け方、獲物の探し方、、逃走経路の選び方まで、確かに防犯マニュアルとしても読めるが、一方で「盗みのマニュアル」としても超一級品。なにしろ、トップクラスのプロの制作・監修であるから間違いはない。本当にヤバイところは伏字にしてあるものの、これを読んで「盗人道」を志す者が本当に出てこないか、老婆心ながら心配になってしまう。
それでもこの本が世に出たのは、やはりここまでしないと「本当の防犯」にはならないということがあるのだと思う。これまでもいろんな防犯マニュアルの類は出ているものの、たいていは捕まえる警察側が作ったものであり、それゆえの限界は否めない。ところがこれはなんといっても盗みに入る側が作ったものなのだ。役立ち度は段違いである。もっとも、これを読むと、生半可な防犯対策では全然効き目がないことが分かり、かえって愕然とするかもしれない。
そしてもうひとつ、この本が書かれた理由として挙げなければならないのは、ある種の「闇の文化」「悪の技術」の伝承を図るという点ではなかろうか。「そんなもの、伝承させる必要はない」と思われるかもしれない。犯罪が許すべきでない行為であるのはもちろんだ。だが、そうであればこそ、その文化は「なかったこと」として抹殺してしまうのではなく、きちんと記録され、継承されるべきなのだ。本書はその意味で、きわめて貴重な記録であり、研究成果となっていると思われる。
まあ、そういうことは措いても、「究極の防犯マニュアル」として本書はオススメ。「道路にゴミが散らかっている地域は(盗みに)入りやすい」「近所同士声をかけあうような地域はやりにくい」「猫は、知らない人が入ると家じゅう走り回るので厄介」「釣り糸と防犯ブザーで仕掛けを作っておくとよい」など、いろいろヒントになる部分も見えてくる。何より、彼ら「闇の住人」たちの思考回路を知っておくだけでも、防犯意識の持ちようというものがガラリと変わってくると思うのである。