【1121冊目】ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』
- 作者: ジェフリー・ディーヴァー,池田 真紀子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/10/28
- メディア: 単行本
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「人間嘘発見器」キャサリン・ダンスを主人公にした、リンカーン・ライム・シリーズのスピンオフ。
ライムものの前作『ソウル・コレクター』がコンピュータ社会の情報管理への警鐘とすれば、本書の背景にあるのは、ブログやオンラインゲームなど、ネット社会にはまっていく個人の危険性。そもそも事件の発端は、有名ブログのコメント欄の「炎上」で一人の高校生が叩かれたこと。その「叩き」に参加した女子高生が命を狙われ、ブログで叩かれていた高校生は、一転加害者の疑いをかけられる……。
例によって、うかつにあらすじも書けないくらいのどんでんがえしが仕組まれているのでこのへんにしておくが、ネット社会の実情が巧妙にストーリーの中に織り込まれている。ブログで叩かれた高校生トラヴィスはネットゲームにはまっており、なんと捜査の展開はゲーム上の仮想空間にまで及ぶ。しかも、そんなネットゲームの世界の「ゲームおたく」への偏見すら、作者はトリックにしてしまう。だからといって単純なネット社会礼賛の小説というわけでもない。むしろストーリーの背骨にあたる部分には、ネット社会やネット中毒への危うさがしっかりと組み込まれている。
そんなターゲットを追跡するのに、対人関係の専門家であるダンスだけでは苦しいところだ。そこで登場するのが、コンピュータの専門家という大学教授ジョン・ボーリング。このボーリングが、また実に魅力的なキャラなのだ。コンピュータには確かに詳しいが、そこに過度にはまり込んでいるわけでもなく、現実世界とのバランスがちゃんと取れている。本書はいつにもまして「嫌な奴」がたくさん登場するだけに、ダンスや相棒のオニール、ボーリングらの明るく真摯なキャラには救われる。残念だったのは、リンカーン・ライムのゲスト出演がなかったことか。まあそれだけ、スピンオフとはいえ、ダンス捜査官自身が主役として一本立ちしてきたということなのだろう。
それにしても、いまさらではあるが、ブログとかネットサービスの怖さというものを、こういう本を読むと再認識させられる。そこには、「煽り」や個人情報の漏洩という怖さもあれば、ネット社会に過剰にはまっていく怖さもある。本書はそのあたりの病理を、巧みにエンターテインメント化した小説。ネット社会の最低限の知識もおさえられており、「ネットの世界ってよくわからない〜」という人は、ストーリー以前にその部分の解説(ブログやオンラインゲーム)だけで仰天するかもしれない。ま、ごたくはこのへんにして、とにかく読めば楽しい時間が過ごせることは請け合いだ。