【1089冊目】ジョン・ハート『ラスト・チャイルド』

ラスト・チャイルド (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1836)
- 作者: ジョン・ハート,東野さやか
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/04/09
- メディア: ペーパーバック
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主人公のジョニーは13歳の少年。双子の妹アリッサが1年前にいなくなり、その行方をずっと探している。父親は失踪、母親は薬漬け。そんなほとんど崩壊しかかった「家族」をつなぎとめ、再生するために……。
アリッサをめぐる「謎」にいくつもの「謎」がからまりあい、それがラストでするりとほどける。ジョニーの視点と刑事ハントの視点が交互に登場し、それが物語にスピード感と、適度な「じらし」を与えている。うまい。
何より痛々しいのがジョニーである。13歳という年齢がなんとも微妙で、子どもから「少年」へと脱皮する年齢って、たぶん13歳くらいだと思うのだが、ジョニーはあまりにもハードな家庭環境ゆえに、子どもどころか「少年」でいることさえ許されない。妹も父親もいなくなり、残された母親はドラッグ漬けで不安定になっている。ジョニーの肩にのしかかっているものは、あまりにも重すぎる。
そんなジョニーに同情し、その母親キャサリンに好意を寄せる刑事ハントの動向が、本書のもうひとつのストーリー・ラインをつくっている。このハントもまた、仕事の枠を超えてアリッサの事件にのめり込み、ファイルを家に抱えて帰り、夜中まで読みふけっているような生活を続けている。そのためか、妻に逃げられ、息子のアレンともしっくりいっていない。ジョニーの家庭とコントラストをなす、もうひとつの「壊れた家庭」がそこにある。
「家族の再生」はアメリカ小説の定番といってよいテーマだが、日本でも「壊れた家庭」は今や珍しくもなんともない。それだけに、この小説は他人事ではなく、読んでいてイタイ。性犯罪をめぐる事情もまた、他人事ではない。日本もまた、女の子が一人で人通りの少ない道を歩いていられる国ではなくなってしまっているのだから。
もっとも、本書はテーマこそヘビーだが、ストーリー展開はジェットコースターのよう。ほとんど中だるみもなく、一気にラストまで連れて行ってくれる。著者の名前は本書で初めて知ったが、1965年生まれの新鋭で、この小説によって英国推理作家協会賞最優秀スリラー賞を受賞しているとのこと。現代ミステリの秀作としてオススメしたい一冊。
ちなみに今回はポケミスで読んだが、文庫にもなっている模様。ちょっとだけネタバレすると、表紙の自転車(←反転)がキーポイント。