自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1053冊目】ニコラス・A・クリスタキス/ジェイムズ・H・ファウラー『つながり』

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力

「朱に交われば赤くなる」とよく言われるように、社会的なつながりによって人が影響を受けることはよく知っているつもり……だったが、それが「ここまで」とは知らなかった。何しろ本書によると、投票行動も性感染症も肥満も自殺も、政治から経済から病気から精神状態まで、ほとんどありとあらゆるものが、人から人へと伝染するというのである。

この本は、人が人間同士の「つながり」によって受ける影響を実証的に明らかにした一冊。普段われわれがその渦中にいる社会的ネットワークを、図式化し、俯瞰することで、その意外な実像を示してくれている。

われわれは、ほとんどすべての人と「ナカ6人」でつながっている、という研究については以前ここでも紹介した。しかし、影響力という点では「3人まで」が平均的な範囲だという。自分から友人へ、友人からその友人へ、そして友人の友人の友人へ。

たとえば「私」に10人の友人がいて、そのそれぞれに10人ずつの(互いに重複しない)友人が、さらにその一人ずつに10人ずつの友人がいるものとする(同僚でも家族でもよいが)。すると、例えば私が選挙に行こうと友人に誘いかけ、20%(10人のうち2人)の友人が影響を受けて投票に行くことを決め、同時にその友人に誘いかけ、誘われた友人のうち20%がさらに同様の行動をとるとすれば、私の友人2人が投票に行き、さらにその友人20人のうち4人、そしてその友人80人のうち16人が投票に行く。つまり、「私」は10人に声をかけた(しかも2人しか影響されなかった)だけなのに、結果として2+4+16=22人の投票を促したということになる。

投票はまだ分かりやすい。本書で驚かされるのは、冒頭にも書いたように肥満や自殺、さらにはもっと抽象的な「幸福」すらも、「つながり」の糸の上をたどって人から人へと伝わるものだということだ。もちろんその伝染率は100%ではない。しかし、一つ一つの可能性はわずかでも、それが3乗されるとなると話は別だ。上の例は友人10人としたが、これが知人100人に意図的に働き掛けるとしたらどうなるか。影響力が10%であっても、その広がり方はとんでもないことになる。実際、ネットの登場で、影響の「増幅率」は一気に拡大した。インターネットは「人々を孤立させる」として批判されたが、実際にはむしろ人々のつながりを拡大する方向に作用していることが、本書を読むとよくわかる。

本書の結論は、基本的に人間は社会的なネットワークを必要としている存在であり、無数のつながりの中で相互に影響を与え、受けることによって、一人ではなしえない大きなことを成し遂げる可能性をもっている、というものだ。このことは、決して個人の力を無視するわけではない。むしろ、一人ひとりが他者に影響を与えることで、個人の力もネットワークを通じて何倍にも増幅されるのだ。本書はそれを「超個体」と呼び、個人単位では認識できなかった人間社会の真の力をそこに見出している。人は一人ではいられない。そんな当たり前のことを、本書は圧倒的な説得力で示してくれている。