【1027冊目】手塚治虫『一輝まんだら』
- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1983/12/12
- メディア: コミック
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- 作者: 手塚治虫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/03/12
- メディア: コミック
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表題の「一輝」は、かの『日本改造法案大綱』の北一輝。魔王と呼ばれた昭和前期の革命的思想家だ。もっとも、この漫画では北一輝が登場するのはせいぜい半ばあたりから。前半の舞台は1900年頃の中国。義和団事件が吹き荒れた清朝末期である。
主人公は三娘という架空の中国の女性。この三娘がとにかくユニークだ。決して美人ではない(むしろブスとして描かれる)が愛嬌があり、そしてとんでもなくハイパーアクティブ。ひょんなことから義和団に加わるが、捕らえた外国人と交わり、殺すよう命じられたことがトラウマとなり、裸の男を見ると衝動的に殺したくなる(そんなことってあるんだろうか?)。この三娘と、裕福な家に生まれるが革命運動に身を投じる青年、王太白の二人を中心に、革命と混乱に満ちた中国の様子が描かれる。
この二人が日本に亡命するところがだいたい中盤くらい。日清戦争の勝利に沸き立ち、中国人を小馬鹿にする日本人が中国人の目から描かれる。その中で登場する北一輝、内田良平、孫文ら。架空の人物と実在の人物を巧みに組み合わせていく手際はさすがの一言。特に北一輝のニヒルな姿は、なんだかブラック・ジャックを思い出す。
ところで、本書は(はっきり書かれていないが)明らかに物語としては未完である。たぶん雑誌連載が打ち切りになったのだろうが、残念至極だ。史実では、このあと北は中国にわたり、革命運動に身を投じるはず。そのとき三娘や王太白がどう関わっていくのか、戦前の日本と中国をめぐる「革命の夢」を手塚治虫はどのように描くのか、読んでみたかった。だが、この時期のことを漫画として連載するには、たしかに本書が描かれた1974〜75年あたりは時期尚早だったかもしれない(むしろ2年間にわたってこのヘビーなテーマを連載し続けた「漫画サンデー」はエライというべきだろう)。むしろ今こそ、北一輝や孫文、あるいは頭山満、杉山茂丸、内田良平、ラス・ビハリ・ボースあたりの、昭和前半の日本とアジアの複雑怪奇な動向を、誰か漫画化してはくれまいか。