hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【696〜698冊目】レベッカ・ブラウン『体の贈り物』『家庭の医学』『私たちがやったこと』

体の贈り物 (新潮文庫)

体の贈り物 (新潮文庫)

家庭の医学

家庭の医学

私たちがやったこと (新潮文庫)

私たちがやったこと (新潮文庫)

『体の贈り物』は短編集。逃れようのない死を迎えつつある人たちの家を訪れ、生活介助や身の回りの世話をするホームケア・ワーカーが語り手である。透明感のある文章、淡々とした筆致。しかし、その中からおさえようもなく、ある種の感情が染み出すように伝わってくる。それが何なのか、うまくは言えない。言葉にしようとすると、それより前に心の内側でぶわっと膨らむものがあって、涙が先に出てきてしまいそうだから。

この小説に関してはたくさん書きたいことがある。さっきから、書いては消し、書いては消している。しかし、書くほどにその言葉は実感から遠ざかる。なんと感想を書くことが難しい小説であることか。だから、あと一言だけにしておく。これはまさに珠玉の短編集である。福祉や医療に携わる人はもちろん、死や病気のことなどほとんど意識したことがない、という人こそ、ぜひ読んで欲しい一冊だ。普段、多くの人が目をそらしてしまっているが、目をそらしてはならないものがここにある。

『家庭の医学』は、「貧血」「化学療法」「睡眠恐怖症」など、いわゆる家庭向けの医学事典のような項目をタイトルにして、癌に侵された母親の入院、治療、そして死を看取るまでを描く。

『体の贈り物』と違うのは、自分自身の母親の病気と死を時間の流れに沿って書ききったところだろう。こちらも淡々とした文章ながら、誰もが経験するはずなのにこれまで正面から書かれることがあまりなかった、「肉親の病気と死に直面する」という人生の大きな体験を見事に一冊の本に仕上げている。ちなみにこの本、もともとは美しい装丁の限定版で2001年に出版され、流通版は2003年に別の出版局から出されたとのこと。この日本語訳のハードカバー版も、その限定版の装丁デザインに拠っているそうである。

『私たちがやったこと』は、書かれた順番からするとこの3冊の中では最初となる。生と死を正面から扱った上の2冊に対して、こちらは愛をめぐる幻想的な短編集で、内容も多彩。

表題作「私たちがやったこと」は、お互いにとっていつも相手が必要となるように「あなたの目をつぶして私の耳の中を焼くことに合意した」という冒頭にぎょっとさせられるが、後半、コミュニケーションを十分に取れない不完全な状態にかえって愛を見出す、という奇妙に倒錯した状況が印象的。また、「結婚の悦び」や「ナポレオンの死」は、幻覚的で幻想的な、一種異様な浮遊感がたまらない。本書の中で最も長い「よき友」という短編は、その後の『体の贈り物』に続いていくことを予感させる、生と死の物語。同性愛者同士の男と女の奇妙で親密な友情が、いかにもレベッカ・ブラウンらしい。