hachiroetoの読書ノート

この世の片隅でこっそり書き続けています。一応自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【694冊目】ピーター・M・センゲ『最強組織の法則』

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か

企業の組織をめぐる本としてはそれなりの定評があるらしい。役所やNPOなど、非営利の組織にもいろいろ応用が利きそうである。

本書が提唱するのは、いわゆる「トップダウン型」「ピラミッド型」の組織からの脱却。そのために必要な「5つのディシプリン(実践されるべき課題)」が挙げられ、それぞれに詳細な解説が加えられている。

第一に「システム思考」。目先の現象や自分の部局にとらわれず、それらを構成しているシステム全体を構造的にとらえる考え方である。この「システム思考」は、5つのディシプリンの中でも特に重要で、頭ひとつ抜き出るものとされる。

第二は「自己マスタリー」。組織を構成する個々の人間に着目し、一人一人が人生を積極的で創造的に生きることが、組織の成長につながる。構成員を「組織の歯車」とみなす発想とはまったく対極である。

第三は「メンタル・モデルの克服」。「メンタル・モデル」とは、人々がものごとを判断する上での「前提」であり、ものごとを捉える「枠組み」である。単純に言えば「思い込み」。この目に見えない「メンタル・モデル」が、実は組織を変える際の決定的な障壁となる。「バカの壁」も、たぶんこれの一種であろう。

第四は「共有ビジョンの構築」。組織のビジョン共有が重要であるという指摘は、他のビジネス書でもたくさん見られる。しかし本書がユニークなのは、「トップのビジョンを全員が共有する」のではなく、個人がもつビジョンを積み上げることで組織のビジョンを形成する、と考えている点である。もちろん個人個人のビジョンは決して同じ方向を向いているわけではないが、それぞれのビジョンを、一定の手順で「共有ビジョン」に変容させるのだという。

第五は「チーム学習」。ここで重視されるのは「対話」である。組織内部の一定のチームを単位として、その中での「対話」がどのようにチームを、そして組織を変えていくかが明らかにされている。古代ギリシアばりの古典的な方法が、現代のビジネスシーンに応用できるところが面白い。

5つの「ディシプリン」(ちなみに本書ではカタカナ語の安易な使用が目立つ。訳者は、この「ディシプリン」とか、キーワードのひとつである「ラーニング・オーガニゼーション」など、重要な概念を日本語に置き換えることを避けているのだろうか?)は個々に存在するわけではなく、むしろ相互に関わり合い、最終的には「システム思考」を実現し、「学習する組織」「自己生成する組織」となっていく、ということのようである。

その「応用問題」の一つとして挙げられているのが、「仕事と家庭のバランス」の問題。本書はこう書いている。「…最後に、仕事と家庭の間に不自然な境界をつくることはシステム思考の天敵であると述べておく。個人の仕事と生活のすべての局面は自然なつながりで結ばれている。われわれの生活は一つなのだ。しかし長きにわたり、組織はこの単純な事実など無視できるかのように―人間には二つの違う生活があるかのように―振る舞ってきたのである」
この、「ワークとライフは別々のものではなく、本来ひとつのもの」という言葉には全面的に賛成。日本のビジネスの世界では相変わらず、「ワーク」のために「ライフ」を犠牲にすることを当たり前のように考えている人がいまだに多いが、著者曰く「ラーニング・オーガニゼーションは破綻した家庭と抑圧された人間関係の上には築けない」。

最終的に、出発点となるのは個人である。組織を構成するそれぞれの個人が積極的で創造的でバランスのとれた人生を送り、明確なビジョンをもつことから、組織の変化が始まるのだという(そういう人間ばっかりで構成されている組織というのもなんだか気持ち悪いが)。どんな組織にも必ずいる「困ったちゃん」「無気力マイペース人間」はどうするのだろう、とちょっと気になったが(たぶんそういう人は排除されるか、いないことになっているのだろう)、個人と組織の関係についての論考はなかなか示唆的である。