【689〜690冊目】窪徳忠『道教百話』『道教の神々』
- 作者: 窪徳忠
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この間、ふと思い立って三井記念美術館の特別展「道教の美術 TAOISM ART」に行ってきた。
老子の「道家」への興味はあったが、道教とどういう関係なのかあまりよくわかっていないまま、「同じ『道』だから、老子とも何かつながりがあるに違いない」というあてずっぽうのミーハー気分で行ってきた。ところが、行ってびっくり。全然知らなかった道教の世界が、すごく面白く思えた。なにしろ、老子との関わりはもとより、三国志の「関羽」も道教の神様(そういえば横浜に「関帝廟」があったが、あれも道教だったのね)だし、安倍晴明で有名な陰陽道も、山伏の修験道も、七夕もお中元も浦島太郎も、み〜んな「道教」につながっているのである。
さらに道教は儒教や仏教とも混じり合いながら融通無碍の変化を遂げ、現在でも中国や台湾では信仰され続けている。多神教的で民間に根付いた宗教という面では日本の神道によく似ているが、静謐で神さびた風情をもつ日本の神道に比べると、道教はかなりカラフルで賑やか。赤を基調にした道教美術の色遣いは、続けて見ると目が痛くなるほどである。実はこちらに行く前、上野でやっている伊勢神宮の特別展も見ていたので、そのコントラストが余計に際立った。
道教が日本にどう入ってきて、どう定着したのかについても気になるが、まずは道教のおさらいを、と思って読んだのがこの2冊。『道教百話』は文字通り道教にまつわる物語や逸話を集めたもの。一方、『道教の神々』は神々に焦点をあてたものだが、結局は神々をめぐるエピソードや由来を語るもので、内容は「百話」同様のエピソード集。ただし、どちらの本にも道教全体の解説がしっかり載っており、ただの散発的な逸話集ではない。むしろさまざまなお話を通して、そういうお話を育み、伝えてきた道教という宗教や、中国の人々のメンタリティのようなものが自然と伝わってくる。
面白いエピソード満載なのであとは読んでいただくほかないのだが、面白かったのは「三尸」の話。これは人間の腹の中にいる3匹の虫で、庚申の日の夜、眠っている間に体内から抜け出して天にのぼり、その人が犯した悪事を神様に告げる。神様は、犯した罪が重ければその人間の寿命から300日を、軽ければ3日を削るのだという(ちなみに、人の寿命は120年からスタートするそうである)。
そこで人々は、三尸に自分たちの悪事を報告させないように、庚申の日は眠らないようにするのだという。日本で「庚申待」という習俗があるが、これはこの逸話に由来する行事であるらしい。ちなみに、かまどにいる神様も毎月1回(こちらは月末)、一家の悪事を天帝に報告するそうである。
このエピソードだけでも、道教がもつ倫理的で生活規律的側面が伝わってくるが、それだけではなく眠らないという抜け道までしっかり用意されているところが面白い。要は報告させないよう策略をめぐらせればよいのだから、そのあたりがキリスト教などとはずいぶん違う。他にも、なかなかに現世利益的でしたたかなお話が多く、中国人の宗教観とはこういうものかと感じる部分も多い。今度はぜひ、日本と道教とのつながりを調べてみたい。