自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【610冊目】辰濃和男・村瀬誠「雨を活かす」【611冊目】童門冬二・村瀬誠「自治体職員世直し志士論」

雨を活かす―ためることから始める (岩波アクティブ新書)

雨を活かす―ためることから始める (岩波アクティブ新書)

村瀬誠の自治体職員世直し志士論 (地方自治ジャーナルブックレット)

村瀬誠の自治体職員世直し志士論 (地方自治ジャーナルブックレット)

村瀬誠氏は東京の下町、墨田区に勤める名物職員。おしぼり消毒にはじまって太陽光発電や下水処理問題などに取り組み、そしてたどりついたのが雨水利用。墨田区を雨水利用の先進自治体に押し上げた当人であり、都市型雨水利用に関しては、おそらくこの人の右に出る人はいない。

「雨を活かす」は、その村瀬氏と、ジャーナリストで「雨水市民の会会長」を務める辰濃氏の共著。世界中で取り組まれている雨水利用の現状や実際のノウハウから、「雨」に関する文化的・社会的な捉え方に至るまで幅広く紹介している。読んでいると、雨に対する見方が変わってくる。

「世直し志士論」は主に村瀬氏自身が書いた自治体職員論、仕事論である。この人がすごいのは、国内はおろか世界中を飛び回り、幅広いネットワークをもち、雨水利用の第一人者となりながら、徹底して現場を離れないところ。常に現場に目をやり、現場にかかわり、その中からとてつもないダイヤモンドを見つけてくる。だが、現場に飛び込み(村瀬氏は「住民参加」ではなく「行政参加」だという)、そこで奮闘するなかで、何を見つけてくるか。その奥義は「感性」だという。

現場に根ざした感性。言うのは簡単だが、実現できる人は少ない。だが、それが実現できたとき、その世界は自治体の枠を超える。雨水利用はその好例である。世界中で都市化が進むなかで、水源確保の問題、都市型水害の問題など、「水」は大きな問題となっている。また、農村部でも、地域によっては有毒物質を含む井戸水に頼らざるを得ないところも多い。その中で、「雨」を貯めて使うことで、どれだけ大きな解決がもたらされるか。まさしく、墨田区という一地域、一自治体の問題意識は、世界全体の問題意識へと広がっていくのである。

だが、そのためには最初から「世界のために」なんて考えて何かをやるわけではない。最初はやはり自分の仕事という「現場」である。ただ、その仕事も、規則どおり、前例どおりで済まそうと思えば済んでしまう。何も考えなくたってそれなりの仕事はできてしまうのだ。事実、(私も含め)大半の自治体職員が日々そういう仕事のやり方をして、いかに多くの宝物を見落としてきているか。そのことを思うとぞっとするが、一方、いつもの自分の仕事がとてつもなくエキサイティングなものに見えてくる。