【578冊目】寺田寅彦「俳句と地球物理」【579冊目】ちくま日本文学全集 寺田寅彦【580冊目】寺田寅彦「椿の花に宇宙を見る」
- 作者: 寺田寅彦
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- 作者: 寺田寅彦
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- 作者: 寺田寅彦,池内了
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いずれも寺田寅彦の随筆集。普通、この手の選集は同じような作品が揃うことが多いと思うのだが、この3冊に収められている随筆は、選者が違うとこうも違うか、と思えるほどバラバラである。その分、寺田寅彦の多彩な文章を存分に堪能できる組み合わせだと思う。
科学と俳諧、この二つが寺田寅彦の随筆の特質である。科学的な見方と俳諧的な見方は、一見あまり相性が良くないように思える。しかし、寺田寅彦においてはこれが見事に融合しているのである。科学を論じるにあたってもどこか俳味があり、俳句を遊ぶにあたってもどこか科学の目が光っている。文系とか理系とかいう区分が、こういう随筆を読むと馬鹿らしくなってくる。
そうしてどの随筆も実にうまく、面白い。日常的な観察や気づきを淡々と語りつつ、科学の視点から思わぬところに切り口を当てることで、その意味合いががらりと変わる。「鳶と油揚」「電車の混雑について」「自然界の縞模様」「茶碗の湯」「金平糖」「線香花火」など、科学エッセイのお手本のような文章である。
また、俳句を論じた随筆も別の味があって面白い。単に俳諧そのものを正面から論じるのではなく、音楽や映画などと比較し、重ね合わせることで、俳諧の特徴と魅力、奥深さを見事に引っぱり出している。さらに、印象的だったのは「俳句と地球物理」の冒頭に掲げられた「22のアフォリズム」。ここに寺田寅彦のエッセンスがすべて凝縮されている。
それにしても、こういう随筆はあまり一気に読むものではない。一日にひとつかふたつ、つまむように読むのが正しい読み方であろう。しかし、読み始めると止まらなくなるのもまた、寺田寅彦の文章の魅力である。別の随筆に「柿の種」というのがあるが、まさしく柿の種のごとく、「つまみはじめるとやめられない」。ちくま全集の解説で指摘されているとおり、湯川秀樹から森毅、養老孟司に至る「科学者エッセイスト」の元祖的存在である。