自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【556冊目】坪井ひろみ「グラミン銀行を知っていますか」【557冊目】ムハマド・ユヌス「貧困のない世界を創る」【558冊目】ニコラス・P・サリバン「グラミンフォンという奇跡」

グラミン銀行を知っていますか―貧困女性の開発と自立支援

グラミン銀行を知っていますか―貧困女性の開発と自立支援

貧困のない世界を創る

貧困のない世界を創る

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]

グラミンフォンという奇跡 「つながり」から始まるグローバル経済の大転換 [DIPシリーズ]

貸付の対象は貧困層の女性。しかも無担保。それでいて返済率は99パーセント以上。そんな「銀行」が存在すると聞いて、誰がまともに信じようか。しかも、その規模は500万人を超え、累積融資額は50億ドル以上。バングラデシュの「グラミン銀行」とは、そんな銀行である。

創設者にしてグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌスはもともとバングラデシュの経済学の教授であった。しかし、国が飢饉に襲われ、人々が周りで次々と餓死していく中で抽象的な経済学の講義を続けることに意味を見出せず、大学を去り、地方の貧しい村ジョブラに身を投じたのだ。

そこで見たのは、多くの貧しい女性が地元の金貸しから借金をして事業を行う姿であった。しかし、借りた金で材料を仕入れて作った製品は、結局金貸しの言い値で販売せざるを得ず、ろくな儲けにならない状態だった。ユヌスはそうした人々に自らのポケットマネーで金を貸し、あるいは保証人になったのだが、驚くべきことに、貧困の中にあっても、彼女らは期限までにきちんと返済したという。しかし、既存の銀行に掛け合っても、貧しい女性に融資を行うところはなかった。そこで、ユヌスは自ら銀行を創設したのである。「グラミン銀行」の誕生であった。

もちろん、単なる善意のみで融資を行ったわけではない。ユヌスが作った仕組みは周到なものであった。金を借りる女性は5人一組のグループを形成し、互いの債務に対するリスクを負う。そのため、金を借りるときには残りの4人の同意を得ることを求められる。また、このグループはお互いを精神的に支える機能も有している。さらに、度々開催される集会では、同じような事業に取り組んでいる女性に出会うとともに、貧困から抜け出すための道筋を確認できる。さらに、グラミン銀行は融資を受けた女性が自ら有するスキルをもとに事業を興すことを基本としている。融資はそのためのきっかけであり、最終的には貧しい女性たちの自立を目的とし、またその力があることを信頼しているのである。

グラミン銀行は、他の銀行のように利益のみを追求しているわけではない。むしろ、その理念はきわめて社会的であり、理想追求的である。しかし、そのシステムは実によくできており、ビジネスモデルとしてきちんと成り立っている。こうした、高い理念と周到なビジネスモデルを両立させたビジネスこそ、ユヌスのいう「ソーシャル・ビジネス」である。

ユヌスが展開するソーシャル・ビジネスは金融にとどまらない。教育、福祉、環境、医療と、「理念としくみの合一」は四方八方に展開していく。そのひとつが、カディーアという起業家の着想にユヌスが共鳴して実現した「グラミンフォン」という携帯電話事業である。グラミン銀行の利用者が携帯電話を購入し、周囲の人々は彼女に金を払って電話を利用する。固定電話の普及率が低いバングラデシュで、決して安くはない携帯電話を、貧しい人々にも利用してもらう絶妙の仕組みである。

また、グラミン銀行とは別のところ、アフリカや南アジアの多くの国で、携帯電話が急速に普及していることも、今回初めて知った。そして、携帯電話の普及で人々の情報格差と移動のコストが劇的に減少し、貧困の解消につながることも。

もともと、ユヌスが金融をはじめ多彩なビジネスを行う究極の目的も、「貧困を博物館に追いやること」であった。そのための決定的なツールが、少額の融資であり、携帯電話なのだ。言い換えれば、「金」と「情報」である。そして、これらは貧困層のもとに直接届き、貧困からの永続的な脱出のために用いられなければならない。その点が、国家に対して援助を行うODAや、個人単位であっても、むしろ自立を阻害しかねない「施し」とは違うところである。

このことは、自治体の福祉施策にとっても重大な意味をもっている。いや、むしろ未来においては、貧困からの脱却は、行政による福祉ではなく、ユヌスやカディーアのような人々によるソーシャル・ビジネスが構築した、理念と方法の融合によって果たされるべきなのかもしれない。そんなことを、本書を読んで思わされた。腐敗した政治と抑圧的な社会をもつ現代のバングラデシュでできたことが、現代や未来の日本でできないとは思えない。少なくとも、ユヌスらのソーシャル・ビジネスは、日本の政府や自治体の貧困対策より先を行っているように思う。