自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【540冊目】竹内宏「『町おこし』の経済学」

「町おこし」の経済学

「町おこし」の経済学

タイトルに「経済学」とあるが、内容はむしろ町おこしの具体例が並んでいる。

前半は東京に着目。江戸から現代までの歴史をたどりつつ、東京という巨大都市で「町」がどのように形成され、変遷してきたのかをたどる。日本橋の変容、六本木の開発など、大きな変化に着目しつつ、その中で変わらない部分にも目を配る。著者が着目しているのは神保町の古書店街と、「おばあちゃんの原宿」巣鴨とげぬき地蔵の商店街である。いずれも自然発生的に生じてきた特徴を活かし、的確に伸ばすことでユニークな場所を形成している。もっとも、これらのケースを「町おこし」とか「まちづくり」と呼ぶことにはやや抵抗がある。それは、そこにあまり「人為」が感じられないためであるように思われる。もちろん実際には、その個性を維持するためにさまざまな工夫がなされているのであろうが、それを周囲に感じさせない自然さが、神保町や巣鴨にはあるのかもしれない。

それに対して後半は、まさに「人為的な」町おこし、まちづくりの具体例を、今度は地方に求めていく。川越や小布施、長浜といった著名な地域がずらりと並ぶが、このグループに共通して感じられたのは、前半とは対照的に、人々の創意工夫の結晶として町おこしが行われていることである。中心市街地の衰退。地域本来の歴史を人為的に蘇らせ、統一的な街並みを作るための規制や補助金精度の構築。高い志をもち、地域を説得して盛り上げ、まとめあげるキーパーソンの存在。その結果として、江戸時代の町並みが見事なまでに復活し、観光客が集まり、それによってその地域が潤うというストーリーが、相似形のようにどの地域にも見られる。それはたしかにひとつのサクセスストーリーであり、素晴らしいことだと思う。ただ、やはりどこかに作為性を感じてしまうのはなぜだろうか。いったん破壊され、失われかけた歴史や伝統を復活させるという迂回路を、どの地域もとらざるをえなかったためであろうか。その作為的な印象の裏側には、日本中で地域の伝統や文化が破壊されてきたという悲しい歴史があるのかもしれない。多少なりとも強引な規制を敷かなければ統一的な街並みひとつ作れないというところにこそ、現代日本の大きな問題があるように思える。