自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【536冊目】朝日新聞特別報道チーム「偽装請負」

偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)

偽装請負―格差社会の労働現場 (朝日新書 43)

昨年末から今年にかけて急に新聞を賑わせた出来事に、「派遣切り」がある。本書で扱われている「偽装請負」と内容は違うが、問題の根は同じ。生産量に応じて蛇口をひねるように就業人数を調整できる「便利さ」であり、労働者を人間扱いしない「非人間性」である。本書はキャノンや松下などで発生した偽装請負の問題を暴いた朝日新聞の取材チームによる一冊。

偽装請負のようなケースを見ていると、「性善説」という言葉が実に虚しくなってくる。効率性のもとに、人は人をここまで酷使できるのか。これでは産業革命化のイギリスとほとんど変わらない。特に衝撃的だったのは、悪名高い「クリーンルーム」での労働。皮膚呼吸もままならないような全身を覆う作業着を着て、汗みずくで「動けば真夏、止まれば極寒」の状態での作業。黄色の光で視力は一気に低下。しかし、最もつらいのは「一定の照明、一定の温度」だという。そんな環境で夜勤を含む長時間労働。月の残業時間は70〜100時間だったらしい。人間の働く環境ではない。自社の社員だったら、こんな環境で長時間労働などさせるだろうか。

偽装請負が選ばれる背景には、派遣社員だと一定期間経過後には直接雇用しなければならないという法の規定があるという。それを避けるために請負形態を選び、しかも事実上は派遣労働に近い働かせ方をする。正社員登用の途がないから将来展望はひらけず、労務管理上の責任も曖昧になる。休暇も満足には取れず、親の葬式で休んでも給料を減らされる。賃金は当然ながら低いままで、キャリアアップなど期待すべくもない。こうした若者を踏み台にして成し遂げられた「景気回復」とは、何だったのだろうか。偽装請負の犠牲となった人々の多くは、私とほぼ同年代、いわゆる就職氷河期の世代である。他人事とは思えなかった。