【527冊目】関満博「現場主義の人材育成法」
- 作者: 関満博
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2005/06/06
- メディア: 新書
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著者の専門は地域産業論、中小企業論。特に現場重視のスタンスを取っておられるようで、本書も、地域産業のありようを実際の現場に即して論ずる一冊。「人材育成法」とあるが、それにとどまらず、地域経済、地域産業のありようについて幅広く書かれている。
地域産業振興の先端的な取り組みが数多く紹介されているが、元気のある、エネルギッシュな現場が多いことに驚かされる。著者の書きっぷりのせいもあるだろうが、熱意のある人々がこんなにどこにでもいるものか、と思わせられた。特に自治体職員としては、自治体で地域産業に携わる職員に、これほど「凄い」意欲と情熱に富んだ人材がいることを寡聞にして知らなかった。そして、地元中小企業やその団体にも同じような人間がいて、そうした人々がうまく組み合わさると、化学変化を起こすように「現場」が変わる。著者が各地でやってこられた「私塾」は、おそらくそのような化学変化のきっかけとなる点火装置の役割を果たしてきたように思われる。
面白いのは、地域産業振興の「後進地」といわれる地域に、著者が先進地域と並んで強い関心を示し、そんな現場にこそ飛び込んできたという点である。著者によれば、先進地域には未来の姿が先取りされているのに対して、最後尾の地域には、現代が抱える社会構造の問題点が最も強くあらわれている、ということである。そして、そんな地域に刺激を与えて変化を起こすことができるということは、どんな地域でも「変わる」可能性を秘めている、ということになる。本書は地域産業という分野でそのことを実証しているが、それは教育や福祉など、自治体政策のどんな分野でも言えることだろう。
また、個人的にもっとも鮮烈だったのは、冒頭に挙げられていた、中国の現場でのインターンシップを経て学生たちが劇的に変わる、という1章であった。学生たちは単に現場で作業をするというだけでなく、その中で希望と将来性に満ちた中国の空気を肌で感じ、当たり前のように長時間の学業や労働をこなす中国人を目の当たりにすることで、自分の生き方や将来に対する考え方が根本的に変わる。ああ、自分はどうしてこういう経験をしないで来てしまったのだろう、と後悔しながら読んだ。