【512冊目】アーネスト・ヘミングウェイ「武器よさらば」
- 作者: アーネストヘミングウェイ,高見浩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: ペーパーバック
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第一次世界大戦を背景に、イタリア軍に従軍するアメリカ人ヘンリーと看護婦キャサリンの愛を描く。ヘミングウェイ自身の従軍体験が反映しているとされる戦争の描写にものすごいリアリティがある。激しい戦闘シーンはあまり出てこないが、常に死と隣り合わせの軍隊生活の日常や、妙に明るいがどこか自棄的な兵士たちの精神状態。まだまだライフルや手榴弾、大砲が幅を利かせていた第一次世界大戦の生々しい迫力と陰惨さ、そして戦争の不毛さとむなしさを、ヘミングウェイは容赦なく暴き出していく。
そして、戦争の描写が過酷であればあるほど、ヘンリーとキャサリンの世界は何とも甘く平和で、光り輝いているようにみえる。負傷して送られた病院でのキャサリンとの再会シーンの静謐な美しさや、後半でヘンリーが軍を離脱し、軍服を捨てて二人でボートを漕いでスイスへ逃亡し、つかの間の平和な暮らしを営む場面はなんともほほえましく楽しげである。特に後半部分は身も蓋もないほどのラブラブ状態の描写が延々と続く。淡々とした文章で綴られているだけに、かえって二人の幸せが際立ってくる。
戦争と愛という両極端が圧倒的なまでのコントラストで描かれているが、そこに一本の軸を通しているのが、このヘンリーという男の魅力だろう。アメリカ人らしいフランクで強い心をもち、とてもやさしいが、どこか孤独の影を背負っている。それに比べると、キャサリンは美人でチャーミングではあるのだろうが、それ以上の奥行きと深みを感じない。むしろリナルディなどの軍での仲間たちのほうが私には魅力的に見えた。特に従軍している神父の好人物ぶりが良かった。