【504冊目】幸田露伴「幻談・観画談」

- 作者: 幸田露伴
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1990/11/16
- メディア: 文庫
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謹賀新年。今年もよろしくお願いします。
さて、本年最初の一冊は、1年でもっとも「日本」を感じる正月にこそ、つれづれなるまま読むにふさわしい本。幸田露伴晩年の作「幻談」「観画談」「骨董」「魔法修行者」「蘆声」の5篇をおさめている。
小説ともエッセイとも言い難い独特の「語り」が満ちた作品ばかりだが、その「語り」が素晴らしい。特に、釣りの蘊蓄を披露しつつ海釣りの中で起こった奇妙な話を語った「幻談」は、斎藤茂吉が「世故にたけた老翁の談であって、これくらい洗練された日本語というものはない」と評したほどの名品である。他の作品にしても、小説の枠組みも何もなく、ただただひたすらに「語り」を紡いでいくだけ、しかもその中に、露伴ならではの底なしの知識と教養に裏付けされた蘊蓄を傾けつつ、話題はあっちに流れこっちに流れ、どうなるのかと思わせてあっさりストンと落とす。老巧の名人芸である。
「観画談」は本書ではもっとも「小説的」であり、内容もなかなか深い。山中の古寺と、離れにいる老僧が印象的である。「骨董」「魔法修行者」は、それぞれ「骨董」「魔法」について逸話をちりばめながらひたすらに語るエッセイ。最後の「蘆声」は小説なのか、露伴の体験を綴ったエッセイなのか定かではないが、やはり釣りがらみの話である。「私」と少年の温かい交流が心に残った。