hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【503冊目】村上龍「案外、買い物好き」

案外、買い物好き

案外、買い物好き

村上龍のエッセイには辛辣なものが多い。特に日本という国家や、日本人に対する疑問や批判が、小説よりもダイレクトに突き付けられてくる。その指摘自体は的確でうなずかされるところが多いが、読んでいて背筋がのびてくる類のエッセイである。しかし、本書はそういったものとは全然違う、肩の力の抜けたお気楽エッセイである。

前半は雑誌に収録されていたものの再録であるが、以前ここでも取り上げた「半島に出よ」の執筆時期と重なっており、期せずして、小説執筆前後の著者の環境が垣間見えて面白い。特に、小説を書き上げた後の独特な虚脱感と「実感のなさ」は、調査も含めれば足かけ5年に及ぶ執筆期間を思えば、むしろそういうものか、と思わせられるリアリティがあった。

そして、このエッセイの眼目は著者自身の「買い物履歴」である。世界各国、各都市での「買い物好き」ぶりが次々と紹介されるが、やはり印象的なのはイタリアで知ったシャツの魅力への没入。地味でオーソドックスだが並はずれてハイクオリティなイタリアのシャツとはどんなものか、読んでいて気になって仕方がなかった。ちなみに、イタリア人の男性が好むシャツの色は「青」。理由は、他の色と一番合わせやすいのが(フォーマル用の白を除けば)青だから、なのだそうだ。確かに、黄色や赤に比べればそうかもしれない。

ちなみに、内容は(多少の文化比較的考察や批判は見られるものの)基本的にお気楽エッセイなのだが、村上龍のタイトで無駄のない文章で書かれると、すごくシリアスな内容に思えてしまうのが不思議。こういうエッセイ・シリーズを書かせた雑誌の狙いは面白いが、村上龍のシリアスでセクシーな文体とはややミスマッチか。