自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【487冊目】中川幾郎・松本茂章編著「指定管理者は今どうなっているのか」

指定管理者は今どうなっているのか (文化とまちづくり叢書)

指定管理者は今どうなっているのか (文化とまちづくり叢書)

ものすごくストレートなタイトルだが、指定管理者制度の完全施行も終わり、早いところでは「2期目」の選定に向けて動き出しているであろう自治体も多いと思われる中、非常にタイムリーな本ではある。

制度導入当初は、指定管理者制度そのものの是非を論ずる本が多かったが、今や制度そのものの存在は前提として、その運用方法を論ずる時期である。本書は、実際に指定管理者として公の施設を管理する団体サイドからの論考を中心に構成されており、いわば「現場の声」を軸として、その周りを理論的な考察が固めている。非常に手堅く、かつ具体的でリアリティに富んだ内容である。ただ、対象が文化施設にほぼ限られているため、指定管理者制度そのものの全貌を語る本とはいいがたい。

それにしても、読んでいて耳に痛いのが、選定者である行政側への不満や苦言である。施設の存在意義や理念が曖昧、「出来レース」の選定を行う、準備期間のコスト負担が行われない……。また、それまで管理を受託していた団体が引き継ぎを行わず、ひどい場合には、4月以降指定管理者となる団体の人間を年度末の閉館日まで事務室に立ち入らせなかったという例もあるという。いやがらせとしか思えない。「2期目」以降もこのようなことが行われることは、許されない。

なお、この手の本には、失礼ながら具体例は面白いが理論面は平板で陳腐、というものが多いのだが、本書で特筆すべきは理論的な考察の充実である。冒頭の「指定管理者の今」は現時点における指定管理者制度の概要や状況をよくまとめているし、末尾の「指定管理者制度を検証する」「地域ガバナンスと指定管理者制度」「指定管理者制度の光と影」の3論文は、いずれもそれまでの具体例をきっちりと引き取り、制度の構造面から的確に分析を行っている。特に制度派経済学を指定管理者制度に適用して分析を行った「指定管理者制度の光と影」は読み応えがあった。