自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【471冊目】西野善雄「200X東京が変わる自治が変わる」

200X東京が変わる自治が変わる

200X東京が変わる自治が変わる

著者は元大田区長で、東京23区の区長会会長も務めた人。本書は、その区長・区長会会長としての経験からにじみ出るような発言集である。

東京の区部は、自治の形態としてはきわめて変則的で独自なかたちをとっている。まず、他の自治体であれば「市町村」のところが、ここだけは「特別区」という存在で、しかもこれは特別地方公共団体である。一部事務組合や広域連合と同じカテゴリーなのである。しかも、その権限には通常の市町村なら有する上下水道や消防が含まれず(清掃ですら、区の事務となったのは平成12年だ)、固定資産税や法人住民税なども都が賦課徴収し、さらに地方交付税の代わりに、都区財政調整交付金といわれる奇妙なシステムが財政調整の働きを担っている。ユニークなのは、この交付金の支出根拠となる都の条例を改める際には、都と特別区の協議の場である都区協議会の意見を聴かなければならないとされている点である。

したがって、都と区の間には常に一種の緊張関係がある。言うまでもなく、事務と財源をめぐる綱引きが常に行われているからである。都は大都市事務の一体性を理由に多くの事務を都に留保しようと図り、区は「市町村並み」の事務とそれに見合った財源を求める。前置きが長くなったが、本書の著者はその都区協議の最前線に立ってきた方であり、その肉声で都区協議の内幕が語られる本書は、少なくとも区部の職員としてはなかなか面白い。

また、本書の中盤を占めるのは大田区ならではの産業集積や中小企業をめぐる話題であり、ここは「区長」としての著者が全面に出て、産業のまちとして今や全国的、世界的に有名になった「大田区」を熱く語ってみせている。また、介護保険では、制度論もさることながら、「その人にとって最良の福祉とは何か」という温かい視点が常に保たれている。総じて、非常に懐が深く、良い意味で振幅が広い。

なお、巻末には著者と今井照氏(ちなみに同氏は元大田区職員)、司会として中嶋茂雄氏(清掃一部事務組合の方らしい)が加わった鼎談が掲載されており、これも著者の人柄や考え方がよく出ているものだった。政治家として相当なキャリアをお持ちだと思うのだが、心の温かさと確固たる信念を兼ね備えたなかなかの人物である。