自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【470冊目】山本英治編著「地域再生をめざして」

地域再生をめざして

地域再生をめざして

コミュニティをめぐる地域再生について、「日本ならでは」のあり方を考える本。市民革命を経て「自立した市民像」が存在する西欧諸国のコミュニティ論を安易に「輸入」せず、日本における地域の歴史をたどった上で、それを踏まえたコミュニティのあり方や、目指すべき方向を示すものとなっている。

面白いのは、コミュニティや地域を「縦糸」に日本の歴史をたどり、いわばコミュニティの日本史を展開している第2章。また、本書の眼目である、我が国の状況を踏まえた地域再生の処方箋を記した部分は、既存のコミュニティ論とどこか近いものを感じるが、行政のお仕着せではなく住民主体、あるいは行政と住民のまさしく「協働」による地域再生論は秀逸。得てして漠然とした抽象論に終始しがちなこの手の議論だが、本書はさまざまな具体例や図表を巧みに用いて、詳細かつ具体的に展開されており、地域づくりの手法論として参考になる点が多い。

市町村合併が相次ぎ、地域再生の重要なアクターのひとつである基礎自治体が広域化する中で、小学校区くらいのレベルで地域のまとまりを回復し、地域のニーズをきめ細かく拾い上げていく必要性はきわめて大きくなっている。しかし、その担い手が誰か、という点がどうしても問題になる。本書はその担い手をあえて特定していない。むしろ、その地域の実情や個々の人的資質、そしてさまざまな役割の人々が適切に組み合わさり、お互いの活動を補完するといったダイナミックな展開が期待されている。地域再生という、都市・農村いずれもが抱えているであろう問題を、複眼的かつ具体的に論じた一冊。