【469冊目】島本理生「シルエット」

- 作者: 島本理生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/11/16
- メディア: 文庫
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群像新人文学賞優秀作となった表題作と「植物たちの呼吸」「ヨル」の2篇を収録。
「シルエット」は女子高生の心の揺れ動きを中心に描かれた小説。自分が男性であるためか、「冠くん」「せっちゃん」「はじめ」などの男性陣に眼が行った。まず思ったのは、何と優しい男の子たちだろう、ということ。特に「せっちゃん」は、高校生からみた大学生の余裕と包容力ということもあるのだろうが、こんなに優しくていいの? という感じ。しかしそういう、ある意味で理想的な男性を描いて、ちっとも安易な感じがしないところはうまい。「わたし」は母子家庭だが、この「せっちゃん」は父親代わり的なところもあるのだろうか。「冠くん」に惹かれつつ「せっちゃん」がいなければダメだ、というのは、そういうことなのかな。深読みかもしれないけど。
小説全体を包んでいる雰囲気も、優しくてなんともゆったりしている。その中で、「冠くん」の負っているトラウマと、そのせいで女性に触れないというところがなんとも痛々しい。それを分かっていても手をつなぎ、触れ合いたいと思ってしまうせつなさ。それすらできないが心が惹かれてしまうつらさ。ラストの「こんなのってない」という心の声が痛切である。
「植物たちの呼吸」「ヨル」はどちらも不思議な空気を帯びた小品。特に、植物をたくさん育てている(しかもイグアナまでいる)男性の部屋で彼を待っているというシチュエーションはすごく詩的なものを感じた。なんだか待っている本人も植物の一部になってしまいそう。「ヨル」は短くて鮮烈。15歳とは思えない選び抜かれた言葉遣いがすごい。