自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【467冊目】鷲巣力「宅配便130年戦争」

宅配便130年戦争 (新潮新書)

宅配便130年戦争 (新潮新書)

前にもここに書いたように思うが、編集学校というネット上の学校がある。松岡正剛氏が校長となり、彼の編集イズムをカリキュラム化した他に例のない学校だ。実は私、今ここの「破」(応用コース)の生徒(学衆という)である。そして、本書はそのカリキュラム内で使う「課題図書」として購入したものだ。

そのため、ざっと見て必要なところだけをピックアップしようと思っていたのだが、読み始めると面白くて止まらなくなり、結局熟読してしまった。郵便制度の成り立ち、その時点からいわば内包されていた「民間」と「官」の争い。それが集約的にあらわれるのが、本書のメインテーマとなっている、ヤマトと運輸省や郵政省の争いである。

本書は宅配便の発達史としても面白いが、もうひとつ、「官」と戦っておのれの領域をひとつひとつ拡大する「民」のパイオニアの活躍としても読むことができる。特に、郵政省は郵便や信書に関する法解釈権を持ちながら、自らも郵便業務を行うという、参入する側にとってはきわめて理不尽な存在であり、これと正面切って戦ったヤマトの苦労は並大抵ではなかったようだ。しかし、その結果として宅配便業界の自由度は拡大し、競合することで郵便局自身もサービスが充実したのである。現在の日本の、世界に冠たる宅配システムは、個人宅配のパイオニアによる血みどろの戦いの結果、築き上げられたものなのである。

さらに、郵政省が公社化し、さらに民営化されたことにより、他の宅配業者はさらに過酷な競争を強いられるようになった。税制や手紙・はがき分野の独占に支えられた郵便局と一般の株式会社にすぎない宅配業者の戦いは、いわばハンデ戦である。理不尽なハンデ戦は今も続いている。さらに、生活支援事業やロジスティックス部門へのシフトなど、単なる荷物の配送を超えた宅配業界の未来像までが示される。当り前だと思っている宅配便の存在を改めて見直したくなる一冊。