自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【443冊目】上村章文「自治体の危機管理マニュアル」

自治体の危機管理マニュアル

自治体の危機管理マニュアル

「マニュアル」の名のとおり、さまざまなケースに応じて、自治体の危機管理体制やとるべき対処法を具体的にまとめた一冊である。

まず思ったのは、文章が硬い。お役所的、しかも警察や自衛隊などの、相当「固め」の役所の文章である。制服の事務官が書いた報告書みたいだな、と思いながら読んだ。

ただし、内容は非常によくまとまっている。総論部分で危機管理体制についての全体像を示した後、各論で自然災害(地震、水害等)、その他の危機(武力攻撃や原発事故、不祥事など。なお、自然災害の一種とも思える「感染症対策」はこちらに入っている)に分けて対処法を具体的に示し、最後に人材育成や情報システム系の整備などの周辺環境論でまとめる、という構成も教科書どおりで分かりやすいし、個々の対応策も具体的で、素人である行政職員が見落としやすい点もきちんとフォローされている。通読するだけではなく、危機管理担当部署においては常備して辞書的に使うこともできるだろう。

それにしても、本書を読んで痛感したのは、危機管理担当としてプロを招き、そのノウハウを自治体に取り入れることの重要性である。一部の恵まれた自治体を除いて、ほとんどのところでは危機管理担当も普通の事務職員がルーチンで配置されていると思われるが、少なくともトップは外部から危機管理の実務に精通し、経験のある人物を招くべきである。事前の計画や準備もプロの目で再構成しなおさなければならないし、何より災害発生時の初動が全然違うと思う。

実際に担当されている方がお読みになったら気分を害されるかもしれないが、はっきりいって素人の事務職では大規模災害が起きても右往左往するのが関の山である。事実上のトップとなる者も素人であるから、迅速で的確なトップダウンの指示が求められる災害対応ではどうしても後手に回ることになる。

もちろん、招くとすれば課長クラスは論外、できれば特別職クラスが望ましい。危機管理にそこまで、と思うとすれば、その意識こそがまず変わらなければならないのである。危機管理担当者必読。