【440冊目】向井敏「残る本 残る人」
- 作者: 向井敏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/01
- メディア: 単行本
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うーん、うまい。参りっぱなしの一冊であった。
タイトル通り、後世に残るであろうと著者が感じた本や作家についての評論集。まず驚かされるのが、その範囲の広さである。飯田龍太の俳句からはじまり、中村幸彦、司馬遼太郎、篠沢秀夫、丸谷才一、倉橋由美子、村上春樹、大沢在昌、宮部みゆき……と、国内の作家・叙述家だけでもこの幅の広さである。さらに海外作家にも同様の目配りの広さを見せるのだが、さらに本書は、ただいろんな人の本を読んでいる、というだけの評論ではないのである。ある一冊を取り上げるにあたっては、単にその一冊のみを語るのではなく、その作家がこれまで書いてきた作品を読み、その中で当該一冊の位置づけを解き明かし、さらに作家の心理の内奥にまで分け入って、その一人、その一冊ならではの勘所をぴたりとおさえているのだ。比べることすらおこがましいが、私のようにやたらめったら目についた一冊を読んでは書き、読んでは書きの繰り返しの、粗雑な読者にとっては本書のようなすぐれた書評ははるかに高い山のごとし、とても届くものではない。
さらに、その文章がまた見事なまでに的確である。本書のテーマ上、並べられている書評はどうしても「褒める」「評価する」ものばかりなのだが、それでいてまったく単調にならない。その本、その作家にぴったりの、これしかないという形容詞がちりばめられ、文相の展開もエキサイティング。下手をすると取り上げられている本そのものより面白いのではないか、と心配になってしまうくらいである。
それにしても困るのは、こういう本を読むと、読みたい本、読むべき本が爆発的に増えてしまうことである。ただでさえ積読本がたまりにたまり、そのうえ図書館にも行くたびに読みたい本が目について毎度毎度の延滞ギリギリという状態なのに、これ以上増えてしまったら本当に眠る時間を削るほかないではないか。まったく、罪つくりな一冊である。