【439冊目】清水聖義「前例への挑戦」

- 作者: 清水聖義
- 出版社/メーカー: 学陽書房
- 発売日: 1999/11
- メディア: 単行本
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著者の清水氏は群馬県太田市の市長さん。平成7年に初当選し、今でも現職である。しかも、平成7年の初当選は、総工費300億円の新庁舎建設の見直しを訴えてのもので、当選後は杭打ちまで終わっていた工事を中止させ、総工費を半額程度に抑えたという。本書は、その後も全国に先駆けた政策を次々と打ち出してきた名物市長の、平成7年からの1期目4年間を中心とした活動を市長自らの言葉で綴った本である。
平成7年頃といえば、地方分権改革より前、制度的には今よりずっと自治体の権能が限られていた時代である。しかし、本書からはそういう制約の存在はほとんど感じられない。むしろ、市長の鋭い問題意識や「気付き」の数々が、制度上の制約やしがらみを軽々と超えてしまっている。「前例がないからやらないのではなく、前例がないからこそやる」という言葉が、これほど似合う人もいないだろう。
また、その「市政改革」の内容が単なる効率化、経費節減にとどまるものではなく、浮いた経費を新しい政策にどんどん振り向けているのも素晴らしい。「不要」と「必要」を虚心に考え、不要なしがらみや先例に囚われずにそれをどんどん実行することによって、お金や人がどんどん動き出す。本書を読んでいると、こうしたことを徹底しているうちに、地域に「流れ」が生まれ、生き生きしてくるようにさえ感じられた。逆に言えば、そうした流れを淀ませているさまざまな要因を探し、ひとつひとつ解決していくうちに、どんな地域も「生きてくる」のかもしれない。
さらに、清水市長が導入している政策は、どれも太田という地域にもともと根っこをもち、どこかで地域とつながっている。他の自治体の新規施策をそのまま導入するのではないから、事業が上滑りすることもない。むしろ、それが住民自身が太田市の魅力を再発見するきっかけにさえなっているように思われる。地方自治のひとつの模範を見る思いであった。