自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【435冊目】天童荒太「包帯クラブ」

包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)

包帯クラブ The Bandage Club (ちくまプリマー新書)

誰かの求めに応じて、誰かが心に傷を負った場所に包帯を巻き、その写真を撮る。それが「包帯クラブ」の活動である。本書は、高校生の時の「包帯クラブ」の経験を大人になった「ワラ」が「報告」する、というスタイルになっている。

人は、いろんな時にいろんなことで、ちょっとずつ心に傷を負っている。小さな傷はすぐに癒えるが、大きな傷はそうはいかない。しかし、傷を負ったことを自覚できないよりは、自分でそのことを認めたほうが、治らないにしても幾分かは気持ちが楽になる。本書で高校生のワラやタンシオたちが「心が傷つくようなことがあった場所で、包帯を巻く」のは、それで傷を癒そうというのではなく、傷があることをまず認めようよ、ということだと思う。そして、そのために包帯を巻くという行為は、センチメンタルと言ってしまえばそうかもしれないし、そんなことをしても意味がない、という指摘もそれなりには正しいのだろうが、それでも、人の心というものを考えるにあたってとても大切な何かにつながっているような気がする。

本書はとてもナイーブな小説だと思う。人を気遣うこと、人の心の痛みにどう接するかということが、本書では「包帯を巻く」という具体的な行為を通じて実に丁寧に語られている。そして、自分の心の痛みや傷を認めることができた人は、他の人の心の痛みをおもんばかることができるようになる、ということも。私もすでに30代、それなりの大人になってしまったが、かつて高校生だった頃はやわらかく敏感で、それでいてナイフのように尖った複雑な心を抱え、ちょっとしたことで傷ついていたものだった。そういうときの傷は、本書でディノらが言うように、「誰にでもよくあること」などという言葉で片付けてほしくない「自分だけの傷」なのだ。そんなことを、本書を読んでいてぼんやりと思い出した。

そういう意味では、本書は一種の青春小説である。「戦わないかたちで、自分たちの大切なものを守る」という言葉が印象的。そういえば、高校生の頃って、そういう「大切なもの」がまだ胸の中にあって、それが滑り落ちていきそうな気がしていたものだった。