【434冊目】石弘之「地球環境『危機』報告」
- 作者: 石弘之
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2008/03/21
- メディア: 単行本
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恐ろしい本である。地球が今、どのような状況に置かれているのか、人類がどの程度「がけっぷち」に立たされているのかが、はっきりと分かる。
すべての端を発しているのは、人口の急増と、科学技術の進歩である。日本こそ少子高齢化で大騒ぎしているが、世界の趨勢は、発展途上国を中心とした人口増状態にある。そのため、森林を切り開いて町が生まれ、食糧を供給するため、農地が拡大し、海産物は乱獲され、希少な野生動物までが食べられてしまう。農地や工場には莫大な水が投入され、切り開かれた森林からは、行き場を失った動物を介して未知のウイルスが広がる。科学技術の開発は、これまでと桁違いの開発や乱獲、化学物質の生成を可能にした。その「報い」は、確実に人類に襲いかかっている。発展途上国の、しかも子どもを中心とした弱者こそ、その最初の犠牲者となる。
人口増にはじまり、巨大化する自然災害、水産物の減少、枯渇しつつある水資源、食糧問題、森林の喪失、砂漠化、感染症、野生動物の絶滅、化学汚染。本書で取り上げられているトピックである。個別の章立てにはなっているが、実はこれらの問題は互いに複雑に絡まりあったまま、暴走して地球を食い荒らしている。本書はその解決策を提示するわけではない。ただ淡々と、事実のみを書くだけである。余計な誇張も、主張すらほとんど交えず、その代わり、徹底してデータを紹介する。著者は元々ジャーナリストであるが、本書もジャーナリストのお手本のような文章である。しかし、冷静で客観的な筆致だからこそ、その背後から、今の地球が置かれている絶望的な状況がリアルに立ち上がってくる。
人口はしばらくは増え続け、皆が欧米や日本のような便利な生活を求め、稼ぐために、進んだ科学技術で大量の伐採や乱獲を行う。そこに見えるのは、もはや戻る手立てすら見当たらない、ブレーキの壊れた機関車のように断崖絶壁に向かって驀進する人類の姿である。恐ろしい本だが、本書は、地球に生きる以上目をそらしてはならない現実についての本でもある。