自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【425冊目】景観まちづくり研究会「景観法を活かす」

景観法を活かす―どこでもできる景観まちづくり

景観法を活かす―どこでもできる景観まちづくり

2004年12月に施行された景観法について、導入前の時点で、その活用法を示した本。

「景観まちづくり研究会」とは聞き慣れない名前だが、巻末の執筆者略歴を見ると、10名ほどの執筆者のほとんどが建築や都市工学を専攻していることがうかがえる。また、執筆の中心になっている岸田里佳子氏は国土交通省に籍を置く。そのため、ということではないだろうが、本書は景観法に肯定的な立場から、その概要と「活かし方」を提示する。

ユニークなのは、すでに行われている各地の景観への取り組み事例を引き合いに出し、景観法を取り入れた場合にどのようになるか、をシミュレーションしているところである。いわば、具体的な適用例を示すことで、従来の条例や協定などに基づく景観行政と法導入後を比較し、景観法の効用を示すかたちになっている。

景観法自体は全国一律で規制を行うのではなく、各自治体で行う景観行政を側面支援するといったコンセプトで作られているため、法導入前後で生ずる違いというと、法を根拠とすることで条例には認められない強制的効果が認められ、関連法令との調整が図られるといった点が挙げられる。本書はそのあたりの違いをそれなりに明確に示しており、実際に景観計画や景観地区などの制度の活用を考えている自治体や住民団体にとっては、マニュアル的な役割を果たしうるものとなっている。制度の説明も分かりやすく、よくまとまっている。

また、本書自体は景観の良し悪しについては中立的な立場をとっており、あまり押し付けがましさがないため、その意味でもマニュアル的な使い方が向いているのかもしれない。その上で、「何が望ましい景観か」を考えるにあたっては、その地域を良く知るとともに、地域の住民が合意しうる最低限のラインを意識することが必要であろう。全国一律の基準を法が示していない以上、他の自治体や外国の例を安易に模倣するなど論外、自治体にありがちな「横並び」をこそ、景観行政ではもっとも警戒しなければならないように思う。