【422冊目】町田康「浄土」

- 作者: 町田康
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/06/13
- メディア: 文庫
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「犬死」「どぶさらえ」「あぱぱ踊り」「本音街」「ギャオスの話」「一言主の神」「自分の群像」の7短編を収める。
一行目から町田康ワールドに引きずり込まれる。自意識過剰のようでいて、妙に突き放したところのある不思議な粘着性のある文体。その文体と不可分一体の奇妙でシュールな世界観。現代の日本のどこか(「一言主の神」だけは古代日本だが)を舞台としているにもかかわらず、この作家の文章というフィルターを通すことで、どこにもない不可解で自意識の歪みを映し出した奇怪な光景が次々と展開する。
自意識という面で象徴的なのは、その裏返しの「本音街」。そこでは誰もが本音しか言わない。また、個人的に一番「町田康っぽさ」を感じたのは「どぶさらえ」。周囲から孤立した主人公の異様な独白と妄想が連鎖している。シュールという点では怪獣ギャオスが東京都中野区に突如出現する「ギャオスの話」であろうか。ほかにも、似たようでまったく違う世界観がそれぞれの短編の中で展開される。暗く鬱屈したラストはどの話にも共通。その「終わらなさ」が妙にこの作家の世界観に合っている。