【414冊目】土岐寛「景観行政とまちづくり」

- 作者: 土岐寛
- 出版社/メーカー: 時事通信出版局
- 発売日: 2005/04
- メディア: 単行本
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遅まきながら日本も景観法が制定され、官民挙げての無秩序状態であった「景観行政」が少しずつ進みつつある。その中で、景観行政についてコンパクトにまとめられた一冊。
海外の事例がたくさん載っているのはこの種の本の例に漏れないところであるが、日本の景観行政について、各地の景観条例による規制から景観法の制定、現在の景観行政のあり方までを追っている点、日本各地の取り組みを(一部は条例付きで)丁寧に紹介している点が特徴であろうか。写真も豊富に載っており、「良い景観」「悪い景観」それぞれのオンパレードである。景観行政全般について基本的なところをおさえつつまとめられており、特に具体例が多く参考になる。
ちょっと気になったのは、景観の「良し悪し」があたかも一義的に決められるものであるように思えてしまう点であった。確かに、けばけばしい看板や空を横切る電線、古風な町並みを乱す大型マンションなど、一般的には景観を乱すものとして捉えられている。しかし、けばけばしい看板が通りの左右に並び、夜になると極彩色のネオンが灯る繁華街の夜も、アジア的でエネルギッシュなひとつの「景観」である。電線もすっかり悪者扱いされているが、電柱が立ち並ぶ町並みの、たわんだ電線の向こうで夕日が沈むような夕暮れの光景など、私などはノスタルジーを覚えてしまう。一方、行政が規則でがんじがらめに縛った「景観」を美しいと思う人もいるだろうが、私などは、多少猥雑でごちゃごちゃしたところに、都市の中の人間臭さを見出してほっとすることもある。観光客にとって美しい町並みが、住民にとって住みやすいかどうかは別の話であろう。何でも行政の価値観で規制してしまってよいのか、一抹の疑念を感じざるを得なかった。
もっとも、私から見て「景観を乱すもの」というのもある。人間臭さではなく合理性と欲望の醜さしか感じられない、醜悪な光景。ドン・キホーテ、ブックオフ(特に夜間照明)、消費者金融のネオンサインである。ちなみに、大型建築物で醜悪といえば六本木ヒルズと都庁が二大巨頭。まるで悪の帝国の居城である。