自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【399冊目】山内和彦「自民党で選挙と議員をやりました」

著者は、もともと東京で切手・コイン商を営んでいたが、ひょんなことから自民党公認候補として川崎市議の補選に出馬することになる。小泉首相衆議院を解散し、総選挙で圧勝した直後のあの時期である。本書はその「選挙」と、当選後の議員生活について綴ったノンフィクション・リポート。

実は本書で書かれている選挙戦の一部始終は、以前ドキュメンタリー映画にもなった。「選挙」と題したその映画を私も観に行ったが、街頭演説から選挙事務所の様子、支持者回りや選挙カーでの選挙活動など、ここまで撮ってよいのかと思うほど選挙の現場にカメラが立ち入っての撮影であり、なかなか見ごたえがあった。ただ、映画が山内和彦という候補の活動を外から撮っているのに対して、本書は「当事者」による記録ということで、また違った面白さがある。

全体を通して感じたのは、とにかく現行の選挙制度が政党有利、しかも大政党ほど有利に働くようになっているということである。告示前の政治活動ができるかどうかに加え、候補者ポスターの掲示から寄付金の多寡に至るまで、そもそも活動内容そのものに圧倒的な格差があるのである。また、公職選挙法の奇妙を通り越して異様とさえいえる時代遅れの規定の数々。大政党有利にできているとはいえ、この法律の現実とのミスマッチングは、いい加減になんとかしなければいけないところに来ているのではなかろうか。

ただ、これほどの自民党有利の追い風の中、しかも候補者中最大の資金を投入したにもかかわらず、得票数が当選ギリギリだったということは、落下傘候補であるということを加味しても、単純に従来型の組織選挙をすればよい、という時代ではなくなってきているということなのかもしれない。そのあたりの兆候のようなものを、本書を読んでいて感じた。

また、議員活動については、われわれ行政側とは違った視点での指摘が多々あり、実務面で参考になる点が多かった。そして、最後に映画についての内幕が書かれているが、映画だけでは分からない点がやはりあるものである。よくあそこまで撮らせたものだと思ったが、ここまでの映画になるとは、関係者の方々も思っていなかったのかもしれない。ユーモラスなスタイルではあるが、自民党の選挙と議員活動を裏側から書いた貴重な資料でもあるといえよう。